月曜日, 8月 27, 2007

胡桃の樹の下で 9

   9

 夕日がとっても赤かった

 ランドセルが重い。

 きょうかしょやノートだけではないから。

 ランドセルには石が入っているから。

 ショウ君がうしろからついてくるから、ランドセルから石を出せない。

 そんなことをすると、またパンチされる。

 あたまをぼっこでつっつかれる。

 うしろをふりむくと、ケイイチ君がニヤニヤわらってる。

 ボクは心の中でためいきをつく。

 こんどは、ジュン君がキックしてきた。

 せなかがいたかった。

 でもボクはなかない。

 だって、ないたらもっとキックされる。

 早くうちにかえりたい。

 

 はっぱのふとんから目をさますと、なみだがでていた。

 今のゆめはなに?

 ボクってこんなことされていたの?

 木がざわざわと音を立てる。

 ボクをなぐさめてくれているのかな。

 くるみの木さん、ありがとう。

 そういえば、のどがかわいた。

 水をのもう。

 ボクはいずみに行った。

 どこまでもとうめいな水を手のひらですくう。

 つめたい。

 でも、きもちがいい。

 ボクはたくさん,水をのんだ。

 何回も何回もすくってのんだ。

 それでも水はいくらでもわいて出てきていた。

 ボクは、木の下にもどった。

 木に話しかける。

 「さっきのゆめはなに? ボクは前にいじめられていたの?」

 木はさわさわと音を立てる。

 気にするんじゃない、と言ってるようだった。

 「うん。そうだね」

 ボクは木にこたえた。

 また、木がさやさやと音を立ててゆれている。

 「そうだよ」と言っているようだった。

日曜日, 8月 26, 2007

胡桃の樹の下で 8

   8

目がさめたとき、おなかがなった。

そういえば何も食べてないなと思った。

どこかに食べもの、ないかな。

そう思ったとき、上からなにかがおちてきた。

ぽとっぽとっ。

ボクはなにがおちてきたか見に行った。

茶色くなったしわしわの木の実。

そとのかわはすぐにむけた。

むいてみるとくるみだった。

木のまわりをぐるっとまわってみると、たくさんくるみがおちていた。

ボクはくるみをひろいあつめた。

きっとこの木がボクのためにおとしてくれたんだ。

この木はくるみの木だったんだ。

 ボクは、石をひろってきた。

 石でくるみをたたいてわった。

 中のみをえだでほじくりだして食べた。

 ちょっとにがくてちょっとあまい。

 おなかがすいていたから、いくらでも食べられた。

 おなかがいっぱいになると、またねむくなった。

 木のはのふとんでねむった。

土曜日, 8月 25, 2007

胡桃の樹の下で 7

   7

目をさますとくらかった。

おなかがすいた。

でも、ママはいない。

だいどころに行った。

だいどころは、いつものようにきたなくてくさかった。

れいぞうこをあけた。

中には、ビールしかなかった。

いつもパパやママがのむやつ。

食べものはなにもなかった。

すいはんきをあけた。

少しだけど、ごはんが入っていた。

しゃもじでごはんをすくって、ちゃわんに入れた。

ぱりぱりと音がした。

ぱりぱりのごはんにしょうゆをかけて、食べた。

ぽりぽりと口の中で音がする。

かたくてなかなかかめない。

でも、おなかがすいていたので、食べた。

もっと食べたい。

でも、ごはんはもうない。

外では、あかやきいろの光がチカチカしていた。

ママもパパもかえってこない。

ボクはひとり。

金曜日, 8月 24, 2007

胡桃の樹の下で 6

   6

 ボクはうたを思いだした。

 なんていう、うただったかな。

 そうだ。

 シャボンだまだ。

 

 しゃぼんだま とんだ

 やねまで とんだ

 やねまで とんで

 こわれて きえた

 かぜ かぜ ふくな

しゃぼんだま とばそう

ボクは小さな声でうたった。

木もさらさらとゆれて、いっしょにうたっているようだった。

なんだかちょっとかなしくて、うれしかった。

べつべつのきもちがまざって、なんだかへんな気分だった。

そして、木からおりた。

なんだかまたねむくなちゃった。

はっぱのふとんでまたねた。

木曜日, 8月 23, 2007

胡桃の樹の下で 5

   5

 ママがボクになにか言ってる。

 ママのかおは、おにのようだ。

 目がつりあがっていてこわい。

 ボクはおしいれの中ににげた。

 ママがあけられないように、力いっぱい、戸を手でおさえた。

 ママが力をこめて戸をあけようとしているのがわかる。

 ボクはひっしで戸をおさえた。

 でもだめだった。

 ママのほうが力があった。

 戸はあいてしまった。

 ボクはおしいれからひっぱりだされる。

 ママがボクをなぐる。

 ボクはいっしょうけんめいあやまる。

 でも、ママはなにもきいてくれない。

 なんかいもなんじっかいもボクをたたく。

 ボクはいたくて、かなしくて、なみだをぽろぽろとこぼした。

 いたさもそんなにかんじなくなったとき、ママはボクをたたくのをやめて、へやを出て行った。

 ボクはねころがったまま。

 目をさますと、ボクの目になみだがついていた。

 ボクは手でそのなみだをふいた。

 木はかぜにゆられて、ざわざわといっていた。

 なんだかボクをはげましてくれているようだった。

 ボクはヘルメットをもっていずみに行った。

できるだけたくさんの水をくんだ。

でも、木のところについたときには半分くらいにへっていた。

その水を木にかけてあげた。

木がさわさわといった。

おれいを言っているようだった。

なんだか、木がもっとそばへおいでと言っているようだったので、木にのぼってみた。

木にのぼるのははじめてじゃない。

前にもこうえんの木をのぼったことがある。

この木よりももっと小さかったけど。

いちばん下のえだをしっかりと手でつかんだ。

そして、こぶになったところに足をかけた。

大きいけれど、のぼるのはそんなにむずかしそうじゃない。

 けっこうかんたんにのぼることができた。

 木の上から見えるけしきはよかった。

 ずっとずっとむこうまで見えた。

 でも、ずっとずっとむこうにはなにも見えなかった。

 どこまでも、原っぱが広がっていた。

 

水曜日, 8月 22, 2007

胡桃の樹の下で 4

   4

 ボクは水をくむものをさがしにいった。

 原っぱの中を、なにかないかと思ってさがしまわった。

 いろいろさがした。

 原っぱがとぎれたところに白いものがおちていた。

 ヘルメットだった。

 ヘルメットには、金色のぎざぎざのバッジがついていた。

 むずかしいかんじもかいてあった。

 「北海道警察」

 よくわかんない。

 でも、水をくむのにちょうどいい。

 こんどからはこれをつかおう。

 ボクはヘルメットをだいて木にもどった。

 なんだか木もボクをしんぱいしていたような気がする。

 たくさん歩いたのでつかれた。

 ボクはねることにした。

 木がおとしてくれたはっぱにもぐりこんでねた。

火曜日, 8月 21, 2007

胡桃の樹の下で 3

   3

 先生がなにか言ってる。

 ボクのかおをじっと見てなにか言ってる。

 先生の声がよくきこえない。

 でも、なんだか先生はおこっているようだ。

 まわりのみんなはボクのほうをじっと見ている。

 ボクはなにもわからないからじっとしている。

 先生がボクのそばに来た。

 そして、きょうかしょでボクのあたまをたたいた。

 なんでたたかれたのか、わからない。

 そんなにいたくはなかったけれど、なみだがでた。

 まわりのみんなはボクをばかにしたような目で見ているだけ。

 ボクの心はちくりとした。

 そこでゆめがさめた。

 おきあがろうとすると、がさがさという音がきこえた。

 ボクの上には、たくさんのはっぱがのっていた。

 ねるまえには、はっぱがなかったから、ねているうちにボクをつつんでくれたんだろう。

 はだざわりはよくないけれど、とてもあたたかかった。

 ボクははっぱをどけておきあがる。

 木に水をあげなくっちゃ。

 きっと木ものどがかわいてるはず。

 ボクはいずみに行って手のひらで水をくんできた。

 そしてそっと木のねもとに水をあげた。

 なんかいも水をあげた。

 ちょっとつかれた。

ボクも水をのんだ。

 でも、この木は大きいからもっと水をあげなくちゃ。

 もっといっぺんにあげることができないかな。

月曜日, 8月 20, 2007

胡桃の樹の下で 2

   2

 今日からボクはここにすむことにした。

 この木といっしょ。

 なんだかこの木はボクを守ってくれそうな気がしたんだ。

 ボクは木に水をあげる。

 木はボクにすずしいこかげをつくってくれる。

 キョウゾンキョウエイというのかな。

 ボクはこの木がすきだし、きっとこの木もボクのことをすきだと思う。

 ボクはきっとこの木を守るためにここに来たのだと思う。

 もしかしたら、この木がボクをよんだのかもしれない。

 どっちにしてもボクはかまわない。

 ボクはこの木がすきだし、ずっとここにいようと思ってる。

 なんだかねむくなってきた。

 ずっと歩いたし、この前、いつねたのかもおぼえていない。

 ちょうど少し木のくぼんだところがある。

 ここでねよう。

日曜日, 8月 19, 2007

胡桃の樹の下で 1

   胡桃の樹の下で

 ボクは、いつからここにいるのかわからない。

 気がついたらここにいた。

 ここはあたたかで、きもちがいい。

 ときどきふく風もつめたくない。

 ここはとっても広い。

 いくら目をこすったって見えるのは地平せんだけだ。

 ボクは原っぱをずっと歩いた。

 なんじかんも。

 ときどき、休んだ。

 ここにはいろんな所にいずみがある。

 つめたくてすきとおったきれいな水だ。

 ボクはその水を手のひらですくってのんだ。

 とてもおいしい。

 3回休んだとき、むこうになにかが見えた。

 ちかづいていくと、それは大きな木だった。

 ボクは木の下までいった。

 その木は大きくてりっぱでたくましかった。

 なんだかボクはその木がすきになった。

火曜日, 7月 31, 2007

『たもちゃん vol.9』

 『たもちゃん vol.9』

 たもちゃんが家にやって来た。

 何年振りだろう。

 兎に角,今の家に引越しをしてから,初めてやって来ることになった。

 まず,やって来る前に一騒動があった。

 出かけようとする直前,たもちゃんは意識不明になった。

 義母や義姉が出かける準備をしている時に,突然なったらしい。

 目は虚ろ。

 口からは涎。

 頬っぺたを叩いても,肩をゆすっても,返事が無い。

 義母と義姉は,もう駄目だ,救急車を呼ぼうかというところまで思ったと言う。

 そこで不図,義母はたもちゃんの口が開いていたため,飴玉を放り込んだ。

 すると,たもちゃんは僅かではあるが,意識を取り戻した。

 たもちゃんは低血糖になったため,意識が朦朧としてしまったのだ。

 後に義母は,

「あの時,意識が戻らなかったら,今頃ドライブなんかしてないで,葬式はどうしようという話になったね」

 と述懐した。

 まあ,兎に角,周りを驚かせたが,何とか我が家に無事にやって来た。

 久々に見るたもちゃんは,以前にも増して,病が進行していた。

 歩く姿は,腰を30度程曲げ,足をヨチヨチさせている。

 膝を普通に上げることが出来ない。

 殆ど引き摺るも同然の歩き方だ。

 我が家にやって来たたもちゃんが,まずしたことは,小用であった。

 体の自由がきかないため,たもちゃんはトイレの前で義母と嫁の手によって下着を剥ぎ取られた。

 オイラはその後姿を見ていたのだが,足と足の間から大きな大きなフグリが見えた。

 びよ~んと伸びきった,今は用済みの器官である。

 その姿は,哀れではあるが,ちょっと滑稽でもあった。

 次の日,オイラはたもちゃんと義母と嫁を乗せて,ドライブに行った。

 たもちゃんたちはまだ,富良野のラベンダー畑を見たことが無かったのである。

 ラベンダー畑について,車から降りる時も簡単にはいかなかった。

 もう足を思うように動かせないのである。

 嫁と義母から叱咤激励を受けながら,車からようやく降りた。

 その後,両脇を嫁と義母が支えていたのだが,たもちゃんはずるかった。

 支えてもらっている時は,よたよたとしながら体重を預けるのだが,一人にさせるとちゃんとそれなりに歩くのである。

 嫁と義母にそう指摘されたたもちゃんは,ニヤッと笑うだけだった。

 たもちゃんは病気をいいことに,怠け者になってしまったのである。

 ずるをするようになったのである。

 「仏のたもちゃん」が「頑固なたもちゃん」になり,今度は,「ずるのたもちゃん」になった。

 オイラと嫁はこれが最後のたもちゃんの旅行になるだろうと話した。

 この時撮った写真は,大きく引き伸ばして印刷した。

 まず,葬儀用の写真にならないと思うが。

 家に帰ってから,暑かったのでアイスを食べようとオイラは考えた。

 たもちゃんにもアイスを食べるかと聞いてみた。

 案の定,たもちゃんは,にやりと笑った。

 そして,嬉しそうにアイスを口から溢しながら食べていた。

 勿論,嫁はそんなたもちゃんを叱っていた。

 たもちゃんは,2日前に意識が無かったというのに,元気であった。

 たもちゃんの葬儀はまだまだやってこないだろう。