火曜日, 8月 28, 2007

胡桃の樹の下で 10

   10

 ボクは、木のねもとでかんがえた。

 どうして、ここにいるのかな?

 パパやママはどこなんだろう?

 どうしてだれもいないんだろう?

 そんなことをかんがえてるとうしろから声が聞こえた。

「剛君」

 ふりかえるとマヒロおねえちゃんがいた。

「マヒロおねえちゃん。いつ、ここに来たの?」

「知らないの。気付いたら剛君の後ろにいたの」

 なんだかふしぎだ。

 ボクはしらないうちにここにいた。

 マヒロおねえちゃんもそうだ。

 いったいなんだろう。

 わからないから、かんがえないことにした。

「ねえ、マヒロおねえちゃん、おなかがすいた?」

「うん、少し」

「ほら、ここにクルミがたくさんあるよ。マヒロおねえちゃんも食べない?」

「あ、本当だ。沢山あるね」

「ボクが、からをわってあげるよ」

 ボクは石でクルミをわる。

 そして、マヒロおねえちゃんにあげた。

 マヒロおねえちゃんは、おいしそうに食べている。

 ボクはマヒロおねえちゃんに会えてうれしかった。

 だから、たくさんクルミをわった。

 ボクも少し食べた。

「ねえ、剛君。何か覚えていることはない?」

 ボクはなんて言ったらいいのかわからなかった。

 だから、だまってしまった。

 マヒロおねえちゃんはボクをじっと見つめている。

「剛君は本当に前の事、覚えていないの?」

 ボクはこまってしまった。

 だって、おぼえていないんだもの。

 マヒロおねえちゃんはボクの目のおくをじっと見つめてこう言った。

「剛君はね、死んだの」

 マヒロおねえちゃんは、かなしそうなこえで言った。

「ボク、しんだの?」

「そう、死んでしまったの。だからここにいいるの」

「じゃあ、ここは天国?」

「違うと思うわ。天国ならもっと沢山のヒトがいるはずだもの」

「じゃあ、ここはどこ?」

「私もわからない。でも想像はしているの」

「どんな?」

「ここはきっと変死してしまった人が天国や地獄に行く前の場所だと思うの」

「ヘンシってなに?」

「あのね、剛君の場合は殺されたの」

「だれに?」

マヒロおねえちゃんは、こまったようなかおをした。

マヒロおねえちゃんは、だまっている。

「ねえ、おしえて。ボクはだれにころされたの?」

マヒロおねえちゃんは、小さな声で言った。

「剛君のパパに」

 ボクは、マヒロおねえちゃんがなにを言ってるのか、さっぱりわからない。

「もう一ど言って」

 マヒロおねえちゃんは、ひとことずつくぎるように言った。

「剛君は、剛君の、お父さんに、頭を、灰皿で、殴られて、殺されたの」

 こんどははっきりとわかった。

 ボクは殺された。

 ボクはパパにころされた。

 ボクはなぐられてころされた。

 どうして?

 どうして?

 ボクはあたまがいたくなった。

 すごくいたくなった。

月曜日, 8月 27, 2007

胡桃の樹の下で 9

   9

 夕日がとっても赤かった

 ランドセルが重い。

 きょうかしょやノートだけではないから。

 ランドセルには石が入っているから。

 ショウ君がうしろからついてくるから、ランドセルから石を出せない。

 そんなことをすると、またパンチされる。

 あたまをぼっこでつっつかれる。

 うしろをふりむくと、ケイイチ君がニヤニヤわらってる。

 ボクは心の中でためいきをつく。

 こんどは、ジュン君がキックしてきた。

 せなかがいたかった。

 でもボクはなかない。

 だって、ないたらもっとキックされる。

 早くうちにかえりたい。

 

 はっぱのふとんから目をさますと、なみだがでていた。

 今のゆめはなに?

 ボクってこんなことされていたの?

 木がざわざわと音を立てる。

 ボクをなぐさめてくれているのかな。

 くるみの木さん、ありがとう。

 そういえば、のどがかわいた。

 水をのもう。

 ボクはいずみに行った。

 どこまでもとうめいな水を手のひらですくう。

 つめたい。

 でも、きもちがいい。

 ボクはたくさん,水をのんだ。

 何回も何回もすくってのんだ。

 それでも水はいくらでもわいて出てきていた。

 ボクは、木の下にもどった。

 木に話しかける。

 「さっきのゆめはなに? ボクは前にいじめられていたの?」

 木はさわさわと音を立てる。

 気にするんじゃない、と言ってるようだった。

 「うん。そうだね」

 ボクは木にこたえた。

 また、木がさやさやと音を立ててゆれている。

 「そうだよ」と言っているようだった。

日曜日, 8月 26, 2007

胡桃の樹の下で 8

   8

目がさめたとき、おなかがなった。

そういえば何も食べてないなと思った。

どこかに食べもの、ないかな。

そう思ったとき、上からなにかがおちてきた。

ぽとっぽとっ。

ボクはなにがおちてきたか見に行った。

茶色くなったしわしわの木の実。

そとのかわはすぐにむけた。

むいてみるとくるみだった。

木のまわりをぐるっとまわってみると、たくさんくるみがおちていた。

ボクはくるみをひろいあつめた。

きっとこの木がボクのためにおとしてくれたんだ。

この木はくるみの木だったんだ。

 ボクは、石をひろってきた。

 石でくるみをたたいてわった。

 中のみをえだでほじくりだして食べた。

 ちょっとにがくてちょっとあまい。

 おなかがすいていたから、いくらでも食べられた。

 おなかがいっぱいになると、またねむくなった。

 木のはのふとんでねむった。

土曜日, 8月 25, 2007

胡桃の樹の下で 7

   7

目をさますとくらかった。

おなかがすいた。

でも、ママはいない。

だいどころに行った。

だいどころは、いつものようにきたなくてくさかった。

れいぞうこをあけた。

中には、ビールしかなかった。

いつもパパやママがのむやつ。

食べものはなにもなかった。

すいはんきをあけた。

少しだけど、ごはんが入っていた。

しゃもじでごはんをすくって、ちゃわんに入れた。

ぱりぱりと音がした。

ぱりぱりのごはんにしょうゆをかけて、食べた。

ぽりぽりと口の中で音がする。

かたくてなかなかかめない。

でも、おなかがすいていたので、食べた。

もっと食べたい。

でも、ごはんはもうない。

外では、あかやきいろの光がチカチカしていた。

ママもパパもかえってこない。

ボクはひとり。

金曜日, 8月 24, 2007

胡桃の樹の下で 6

   6

 ボクはうたを思いだした。

 なんていう、うただったかな。

 そうだ。

 シャボンだまだ。

 

 しゃぼんだま とんだ

 やねまで とんだ

 やねまで とんで

 こわれて きえた

 かぜ かぜ ふくな

しゃぼんだま とばそう

ボクは小さな声でうたった。

木もさらさらとゆれて、いっしょにうたっているようだった。

なんだかちょっとかなしくて、うれしかった。

べつべつのきもちがまざって、なんだかへんな気分だった。

そして、木からおりた。

なんだかまたねむくなちゃった。

はっぱのふとんでまたねた。

木曜日, 8月 23, 2007

胡桃の樹の下で 5

   5

 ママがボクになにか言ってる。

 ママのかおは、おにのようだ。

 目がつりあがっていてこわい。

 ボクはおしいれの中ににげた。

 ママがあけられないように、力いっぱい、戸を手でおさえた。

 ママが力をこめて戸をあけようとしているのがわかる。

 ボクはひっしで戸をおさえた。

 でもだめだった。

 ママのほうが力があった。

 戸はあいてしまった。

 ボクはおしいれからひっぱりだされる。

 ママがボクをなぐる。

 ボクはいっしょうけんめいあやまる。

 でも、ママはなにもきいてくれない。

 なんかいもなんじっかいもボクをたたく。

 ボクはいたくて、かなしくて、なみだをぽろぽろとこぼした。

 いたさもそんなにかんじなくなったとき、ママはボクをたたくのをやめて、へやを出て行った。

 ボクはねころがったまま。

 目をさますと、ボクの目になみだがついていた。

 ボクは手でそのなみだをふいた。

 木はかぜにゆられて、ざわざわといっていた。

 なんだかボクをはげましてくれているようだった。

 ボクはヘルメットをもっていずみに行った。

できるだけたくさんの水をくんだ。

でも、木のところについたときには半分くらいにへっていた。

その水を木にかけてあげた。

木がさわさわといった。

おれいを言っているようだった。

なんだか、木がもっとそばへおいでと言っているようだったので、木にのぼってみた。

木にのぼるのははじめてじゃない。

前にもこうえんの木をのぼったことがある。

この木よりももっと小さかったけど。

いちばん下のえだをしっかりと手でつかんだ。

そして、こぶになったところに足をかけた。

大きいけれど、のぼるのはそんなにむずかしそうじゃない。

 けっこうかんたんにのぼることができた。

 木の上から見えるけしきはよかった。

 ずっとずっとむこうまで見えた。

 でも、ずっとずっとむこうにはなにも見えなかった。

 どこまでも、原っぱが広がっていた。

 

水曜日, 8月 22, 2007

胡桃の樹の下で 4

   4

 ボクは水をくむものをさがしにいった。

 原っぱの中を、なにかないかと思ってさがしまわった。

 いろいろさがした。

 原っぱがとぎれたところに白いものがおちていた。

 ヘルメットだった。

 ヘルメットには、金色のぎざぎざのバッジがついていた。

 むずかしいかんじもかいてあった。

 「北海道警察」

 よくわかんない。

 でも、水をくむのにちょうどいい。

 こんどからはこれをつかおう。

 ボクはヘルメットをだいて木にもどった。

 なんだか木もボクをしんぱいしていたような気がする。

 たくさん歩いたのでつかれた。

 ボクはねることにした。

 木がおとしてくれたはっぱにもぐりこんでねた。

火曜日, 8月 21, 2007

胡桃の樹の下で 3

   3

 先生がなにか言ってる。

 ボクのかおをじっと見てなにか言ってる。

 先生の声がよくきこえない。

 でも、なんだか先生はおこっているようだ。

 まわりのみんなはボクのほうをじっと見ている。

 ボクはなにもわからないからじっとしている。

 先生がボクのそばに来た。

 そして、きょうかしょでボクのあたまをたたいた。

 なんでたたかれたのか、わからない。

 そんなにいたくはなかったけれど、なみだがでた。

 まわりのみんなはボクをばかにしたような目で見ているだけ。

 ボクの心はちくりとした。

 そこでゆめがさめた。

 おきあがろうとすると、がさがさという音がきこえた。

 ボクの上には、たくさんのはっぱがのっていた。

 ねるまえには、はっぱがなかったから、ねているうちにボクをつつんでくれたんだろう。

 はだざわりはよくないけれど、とてもあたたかかった。

 ボクははっぱをどけておきあがる。

 木に水をあげなくっちゃ。

 きっと木ものどがかわいてるはず。

 ボクはいずみに行って手のひらで水をくんできた。

 そしてそっと木のねもとに水をあげた。

 なんかいも水をあげた。

 ちょっとつかれた。

ボクも水をのんだ。

 でも、この木は大きいからもっと水をあげなくちゃ。

 もっといっぺんにあげることができないかな。

月曜日, 8月 20, 2007

胡桃の樹の下で 2

   2

 今日からボクはここにすむことにした。

 この木といっしょ。

 なんだかこの木はボクを守ってくれそうな気がしたんだ。

 ボクは木に水をあげる。

 木はボクにすずしいこかげをつくってくれる。

 キョウゾンキョウエイというのかな。

 ボクはこの木がすきだし、きっとこの木もボクのことをすきだと思う。

 ボクはきっとこの木を守るためにここに来たのだと思う。

 もしかしたら、この木がボクをよんだのかもしれない。

 どっちにしてもボクはかまわない。

 ボクはこの木がすきだし、ずっとここにいようと思ってる。

 なんだかねむくなってきた。

 ずっと歩いたし、この前、いつねたのかもおぼえていない。

 ちょうど少し木のくぼんだところがある。

 ここでねよう。

日曜日, 8月 19, 2007

胡桃の樹の下で 1

   胡桃の樹の下で

 ボクは、いつからここにいるのかわからない。

 気がついたらここにいた。

 ここはあたたかで、きもちがいい。

 ときどきふく風もつめたくない。

 ここはとっても広い。

 いくら目をこすったって見えるのは地平せんだけだ。

 ボクは原っぱをずっと歩いた。

 なんじかんも。

 ときどき、休んだ。

 ここにはいろんな所にいずみがある。

 つめたくてすきとおったきれいな水だ。

 ボクはその水を手のひらですくってのんだ。

 とてもおいしい。

 3回休んだとき、むこうになにかが見えた。

 ちかづいていくと、それは大きな木だった。

 ボクは木の下までいった。

 その木は大きくてりっぱでたくましかった。

 なんだかボクはその木がすきになった。