『オラの家族 Vol.10 チコ』
チコについて,Vol.6でも書いたが,トコのことの方が量的にも内容的にも多かったので,改めて書こうと思う。
チコはインコである。
セキセイインコである。
因みに『セキセイ』とは『背黄青』と書く。
つまりは,背中の羽の色が黄色や青なのである。
チコとトコを飼い始めたのは確か小学校の高学年からだったと思う。
なぜか,雛のチコとトコを世話した記憶はあるのだが,時期や季節の記憶が無い。
トコは天寿を全うすることはできなかったが,チコは長生きをした。
オイラが大学に通うようになっても,生きていた。
チコは,人懐っこいインコであった。
籠から出すと,よく,人の肩や頭に止っていた。
また,話もできた。
勿論,会話はできない。
いわゆる鸚鵡返しである。
彼が覚えていたフレーズは以下の通りである。
「あっちゃん,学校」
「お父さん,お仕事」
「お兄ちゃん,勉強」
「チコちゃん,チコちゃん」
の,4種類である。
しかし,彼はこの4つのフレーズを組み合わせて,彼なりに豊富に富む話をしていた。
「お父さん,勉強」
とか
「あっちゃん,お仕事」
という具合である。
それなら,まだいいが,調子に乗ると
「チコちゃん,お仕事」
などと言っていた。
嘘をつけ。
お前は,何にも仕事していないだろうが。
という,突っ込みを何回も入れたが,彼は反省しなかった。
どの鳥もそうなのかは確認していないが,彼は爪の音が好きだった。
親指と中指の爪を弾くと「パチッ」というか「カチッ」というか,音が出る。
彼は,その音が大好きで,その音を聞くと興奮して毛が逆立ち,瞳孔をキュッとすぼめた。
そして,話を始めた。
特に眠たいときは,顕著であった。
オイラは,暇になると爪の音を立てて,チコに話をさせていた。
オイラも楽しんだが,彼も彼なりに楽しんでいたと思う。
チコは,人間で言えば中年の辺りで連れ添いを失った。
きっと,熟年,老年の頃は寂しかったろうと思う。
しかし,その分,彼は人間に甘えてきた。
果物が好きで,よくオイラの肩に止って,林檎をシャリシャリいわせて,食べていた。
しかし,齧った林檎を飲み込むより,辺りにばら撒いている方が多かったと思う。
彼は,食欲を満たすというよりは,その齧る音が好きだったのだろうと思う。
彼は,オイラが大学生の頃に大往生した。
10年位生きたのだから,長寿の部類に入ると思う。
ある朝,彼は籠の中で冷たくなっていた。
オイラは,そっと土に埋めた。
その後,オイラは鳥を飼っていない。
きっと,チコは今でも虹の橋の袂で,林檎をシャリシャリいわせていると思う。