木曜日, 10月 02, 2008

『たもちゃん vol.12』

 『たもちゃん vol.12』

 1年ぶりにたもちゃんと会った。
 一言で言うとたもちゃんの病状は大分悪化していた。
 先ず、座っているときの姿勢がひどくなった。
 腰が60°位前に傾いている。
 手の震えはバイブレータの様だ。
 頭頂部は・・・うん。あまり変わりない。
 しかし、話をするとどうもおかしい。変だ。
 辻褄が合わない・・・
「この頃、お酒はあまり飲まないんですか」
「そうだな、15年前から飲んでいない」
 15年前というと、オイラ達が結婚した頃だ。
 この頃は毎晩、酒盛りだった。
「そんなことないでしょ。優花が生まれた頃だったから、よく飲んでいましたよ」
「いや、わしは20年前から飲んでおらん」
 へ? 20年前? ついさっきは15年前と・・・
 兎に角、万事がこうだ。
 頭の外側はともかく、中身の方は大分老人力が進んだようだ。

 年をとるということは子供に近づくことだ。
 今回、本当に実感した。
 教えてあげないと鼻がかめないのだ。
 鼻水がずるずると出てくる。
 すると、たもちゃんは鼻をかもうとする。時々。
 たもちゃんは、ティッシュを握ると鼻水を拭うだけなのだ。
 さきちゃんや嫁やさな(長女)に
「ちゃんと鼻に力を入れてふんと出しなさい」
と言われないと鼻がかめない。
 まるで3歳児だ。
 しかし、容姿は可愛くない。

 たもちゃんが昼寝から覚めたときだ。
「おい。リリー起こしてくれ」
 傍にいたリリーに頼んでいた。
 起こしに行ったら、たもちゃんの目は真面目だった。
 ああ、もうここまで来てしまったか・・・
 たもちゃんも恍惚の人に近づきつつあるのを感じた。
 でも、オイラが
「お父さん、パチンコでも行きましょうか」
と言ったときの、たもちゃんの嬉しそうな顔を一生忘れないだろう。

木曜日, 9月 11, 2008

久し振りの「社長」です

 『社長 vol.44』

 社長は強運の持ち主だった。
一般的生活は底辺層に近いのだが、時折勝負強いところを見せてくれる。
金に固執する態度が福の神を招き寄せるのであろうか。
社長は2度ハワイに行ったことがあった。
しかも只である。
1回目のハワイ旅行はクイズ番組で優勝して行った。
かなり昔の(30年ほど昔か?)、しかもあまり視聴率の高くない番組であった。
確か番組名は「トラベルチャンス」だったように思う。
関口宏が司会者で、日曜の午前10時頃に放送されていたように思う。
このクイズ番組はちょっと変わっていて、出された問題を解答者が順番に答えていくものだった。
分からなかったら次の解答者に答える権利が生まれる。正解だったらまた次の問題に解答する権利が与えられる。
そしてあるポイントに達すると優勝となる。今思えば(今でなくとも)もうグダグダの展開のクソ面白くない番組であった。
しかし社長は高校生であるにも拘らず優勝を勝ち取ったらしい。
そして、ハワイ旅行をゲットした。らしい。
「いやあ~先輩。あのクイズ番組はぬるぬるですから楽勝ですよ。O君(オイラ)も雑学が得意だから、出たらすぐにハワイに行けますよ。いっひっひっひっひ」
そのハワイ旅行では何をしたか詳しく聞くことは無かった。
まあ、どうせくだらないことをしていたに違いない。

そして、大学3年の時にそれは起こった。
またしても社長はハワイ旅行をゲットしたのだった。
その頃オイラの友達の多くが、あるバイトをしていた。北海道に住んでいる人にはすぐに分かる大手企業だった。
その頃のバイト先は急成長を遂げている真っ最中で、羽振りがよかった。
何せ時給が1500円以上であった。毎日のバイトではなかったため月給は大したことは無かったが夏休みや冬休みは10万を越えることが当たり前だった。
そんな急激に業績を伸ばしている企業は、太っ腹で、業績が大幅にアップしたことがあって、数名をボーナスとしてハワイ旅行に招待してくれたことがあった。
オイラ達の支部も3名が行けることになった。
その頃の事業所には50名程のバイト、正社員がいた。
確率は3/50。
言わなくても分かるだろう。
社長は見事にと言うか、当たり前にとでも言うか、当たりくじをゲットした。
オイラ達は社長に「2001円 ハワイの旅(2001年 宇宙の旅のパクリ)」と言う名目でそれぞれ2001円を餞別として送った。
勿論、社長はその選別を当たり前のように受け取ったのは言うまでもない。

さて、ここまで読んだ人は社長のハワイでの行動、つまりは観光について詳しく知りたいであろう。
書きます。
先ず、出掛けるときの服装が斬新であった。
ハワイに遊覧目的で行く人には到底見えぬ出で立ちであった。
スーツである。
ネクタイを締めて。
その姿は、社長らしくない。
いや、社長らしさの極致かもしれない。

社長はハワイに行く必要は全く無かった。
国内で十分であった。
いや、旅行にさえ行かなくてもよかったと言える。
社長は2回目のハワイで何をしたか。
ポルノ映画を見て過ごした。   らしい。
その映画も裏ビデオで有名な「洗濯屋ケンちゃん」であった。
社長はこう語った。
「いやあ~。日本で裏ビデオを見るには結構、金が掛かりますからね。ハワイでは映画館でやっているから安いんですよ。いっひっひっひっひ」
「いやあ~。先輩にも見せてあげたかったですよ」
うるさいって。

社長は、ビーチでのんびりとか観光とかガンシューティングクラブに行ったりとかせずに、連日ポルノ映画を見たらしい。
ハワイでポルノ映画三昧。
確かに社長らしい。
ビーチで優雅に読書するなんていうのは全然合わない。

しかし、我々は失望した。
何に対してか?
お土産に対してである。
社長がハワイに行く。つまりはアメリカに行くのである。
お土産はやはり無修正ポルノ雑誌が正等ではないだろうか?
社長の買ってきた物はすべてどうでもいい物ばかりであった。
社長自身用のポルノ雑誌を除いて。

金曜日, 6月 06, 2008

『オラの家族 Vol.16 ハナ』

 『オラの家族 Vol.16 ハナ』

 オラに新しい恋人ができた。
 家族ではないが準家族くらいにはなると思う。
 名前をハナという。
 古風な名前だが,年齢は不詳である。
 彼女との出会いは不図したことからだった。
 リリーの散歩中に出会ったのだ。
 彼女の容貌はポメラニアンぽい。
 で,ちょっときかなそうな顔つきである。
 体の毛はぼさぼさしていて,触り心地はあまり良くない。
 体格も小さい。どこから見ても雑種である。
 彼女は,最初はこちらを警戒していたし,リリーに向かって威嚇攻撃をかけた。
 リリーは肝っ玉が小さいので吼えるだけだが,ハナはリリーを齧った。
 それ以来,リリーは半径3m以内には近づこうとしない。
 また,お互いに不可侵条約を結んだのか永世中立の道を選らんだのか知らないが,お互いに相手を無視し,吼えることも無くなった。
 オラは今,ハナに首っ丈である。
 はっきり言ってリリーといるより,ハナといるほうが楽しい。
 理由は簡単である。
 リリーは自分に都合のいい時しかこちらに寄って来ない。
 まあ,身勝手な犬である。
 もしかして猫の生まれ変わりではないだろうか。リリーは。
 その点,ハナは可愛らしい。
 体を擦り付け来たり,尻尾をぶんぶんと振る。
 やはり犬はこうでなくてはいけない。
 リリーのような犬は犬の地位を貶めるだけである。
 ハナには毎日,ソースカツを与えている。
 と言っても駄菓子の一種で,魚肉の周りに衣をまぶして揚げた代物である。
 ハナはこれが大好物である。
 もう,野生に帰ってがふがふしながら食う。
 食べるではない。食うである。
 リリーは食べ物を手に載せてあげても,手を齧らないように細心の注意を計らって食べる。
 ハナはそうじゃない。
 手ごとカツを食べる。
 まあ,今のところ強く噛まれたことはないが。
彼女との逢引の時,リリーはいつも背中をこちらに向けて座っている。
彼女なりの反抗,やきもちの表現なのだろうか。
 ハナのちょっと嫌なところはウンモ食いをすることである。
 ウンモを食った口でオラの手からソースカツを食う。
 ちょっとどころではない嫌さだ。
 それでも,毎日のように彼女の元へ訪れる。
 どうも,恋に狂った中年男である。

日曜日, 3月 09, 2008

 『社長 vol.43』

 社長のパパはDQNだ。
 それは,以前にも書いた。
 それが何故,今か?
 オイラの気分である。
 実はそれだけではない。
 あるニュースを見て思い出したのである。
 社長のパパは,一時チンピラをしていて,白い粉にも手を出したという。
 白い粉の内でも,「シ○ブ」の方である。

 何時だったか,思い出せないのだが,みんなでトリップの話をしていた時だ。
 社長は,言った。
「シ○ブをやる時には,○○○の○の裏についている水を使うんですよ。
「○○○の○の裏の水は蒸留水で,殆ど純水に近いんで,シ○ブには打ってつけなんですよ,先輩。
「○○○の○の裏を引っくり返して,シ○ブを入れ,それを注射器でちゅーっと吸って,ブスリですよ。
「腕なんかに刺したら一発で分かるんで,見え無いところに打つんですよ。
「女だったら,○○○に打ったり,男だったら足の指の間に打ったりするんですよ」
 説得力のある説明である。
 Hが聞いた。
「Sのオヤジはどこに打ってたんだよ?」
「え~~~と,うちのオヤジの場合は,瞼の裏に打っていたんですよね」
 群集はざわめく。
「どうやって打つんだ?」
 その疑問は,尤もである。
 シ○ブの素人である我々には理解できない。
 しかし,人間っていうのは,正に「考える葦」で,何とかしちゃうのである。
「えっとですね。うちのオヤジの場合は,右利きなんで,右手で瞼をつまみ上げてるんですよ。
「次に,瞼を引っくり返しちゃうんですよ。
「そして,左手で持っていた注射器をそっと瞼の裏にあてがって,瞼をチクリと針に刺すんですよ」
「針をブスリじゃなくて,瞼をチクリなんですよ。そこんとこ,間違えないで下さい」
 誰が,間違うか。
 もしかして,オイラたちにもシ○ブをやれと言っているのか?
 オイラ達は,白い粉に手を出さねえよ。

 それにしても,ひどく具体的である。
 ディテールが細かい。
「S,お前見ていたのか?」
 これも至極当然な疑問である。
「まさか。やだなあ,先輩。私の見ている前で,オヤジがシ○ブをやる訳,無いじゃないですか」
 どうなんだか。
 「この親ありて,この子あり」である。
 いや,「この子ありて,この親あり」か。
 どうだかわからない。
 社長のことだから,もしかしたら手を出していたのかもしれない。

 その後,我々数少ない社長の友人達は,ハイになった社長を見ると,「ちょっと前にどこかにチクリとしたな」と思うようになった。

土曜日, 2月 23, 2008

社長 vol.42

 この間,2chを見ていたら,社長を思い出した。
 それは,古く汚れた10円玉をピカピカにする方法だった。
 2chでは,色々な方法が書かれていたが,社長のやり方は,次の通りであった。
 10円玉をソースに浸すという方法である。
 社長は学食でこの方法をオイラ達に教授してくれた。
 その教授方法が実に社長らしかった。

 何をしたか。
 社長は,学食にあった湯飲み茶碗に10円玉を入れ,その後,ドボドボとウスターソースを入れた。
 いや,入れたというものではない。
 なみなみと注いだのである。
 湯飲み茶碗は溢れんばかりだった。
 そして,その中に指を突っ込み,10円玉を取り出した。
 「あれ?あんまり綺麗にならないですね」
 「もう少し時間を掛けてみましょう」
 「あれ,まだ綺麗にならないですね」
 「もうちょっと置くと綺麗になりますから。先輩」
 時々取り出しては,10円玉を指で擦っていた。
 そして,ウスターソースの付いた指は,口へと運ばれ,最終的には自分のトレーナーでソースと唾液を拭っていた。
 
時が経った。
 時計は12:45。
 そろそろ午後の講義の始まりである。
 オイラ達はあせっていた。
 何故か?
 講義に遅れて行くと,いい席が確保できないからである。
 いい席とは,言うまでも無く教授から最も遠く,見えづらい席のことである。
 オイラ達は不真面目な学生であるからである。

 しかし,そんなオイラ達の思惑とは裏腹に,社長は泰然としていた。
 勿論,KYである。   ・
 いや,正確には「空気を読まない」のである。
 「S,もう行くぞ」
 オイラ達は社長を促す。
 「いや,もうちょっと待って下さい。綺麗になりますから」
 10円玉をコシコシ。指を舐め舐め。
 「もういいって」
 それでも,10円玉をコシコシコシ。指を舐め舐め舐め。
 「いや,本当に綺麗になりますから」
 更に10円玉をコシコシコシコシ。指を舐め舐め舐め舐め。
 「だから,それはこの次でいいって」
 コシコシコシコシコシコシ。舐め舐め舐め舐め舐め。
 「先輩,本当ですから。嘘じゃないですから」
 講義が始まろうが,オイラ達がいい席を確保したい思いを持っていること等,そんなことはどうでもいいのである。
 社長にとって,この時は,10円玉をピカピカにする方法が正しい情報であることをオイラ達に証明するのが,最優先事項であったのだ。
 
 12:55,ついに社長は実験の検証を諦めた。
 ソースのなみなみと入った湯飲み茶碗に指を突っ込み,10円玉を取り出すと,その10円玉を着ていたトレーナーで拭き取った。
 指も同じように拭き取ったのは言うまでもない。
 そして,何事も無かったかのように講義に向かった。
 そんな社長がオイラには理解不能であった。
 理解したくても理解したくなかった。
 オイラは,社長というものから現実逃避をしていたのである。

 社長のいつも着ているトレーナーは,オレンジ色から,迷彩服のような物へと変化していた。
ところどころに茶色の染みが付いていた。
 しかし,そんな服を着ていながらも,社長の顔から得意気な表情は消えなった。
 そう,社長にとって服とは暖かければそれでいいのである。
 「流行の服装に敏感でなければならない,人間は服のセンスが大事だ」そんな脅迫概念に囚われている人は,社長を見習え。
 楽に暮らせるぞ。

日曜日, 2月 17, 2008

たもちゃん 11

 このところ,たもちゃんのところに行けなくなっている。
 オイラが,である。
 嫁は2,3ヶ月毎に行っているのだが。
 理由は,嫁が嫌がるのである。
何故嫌がるか。
答は簡単である。
嫁は実家に帰ると炊事・洗濯・掃除・たもちゃんの世話等等,しなければいけないことが沢山あるのである。
我儘なオイラの面倒まで見切れないということだ。

さきちゃんは,どっちかと言うと家の中のことにはあまり手を出さない。
おおらかなのである。
ちょっと意地悪に言うとあまり家事が得意ではないのである。
どちらかと言うと,苦手であり,へたくそである。
畑仕事や男がするような力仕事は得意なのだが。
勿論,たもちゃんが病気になってから,外の仕事がいっぺんに増えた。
なおさら,家事まで手が回らないのである。

そして,我らがたもちゃん。
一日中テレビをぼーっと眺めている。
オイラが行った時は必ず,ぼーっとテレビを眺めている。
確かに他にすることもないし。

そして,オイラはいうと,たもちゃんの頭頂部を観察する。
全意識を集中させて。
たもちゃんのその頭は,白髪頭のちょっと河童気味の禿。
「うん,夏に来た時より確実に頭髪の本数は減っている」
オイラは堂々として,禿であることを隠さないたもちゃんが好きだ。
巷にはよくいる。
髪が薄いことを物凄く神経過敏になっている人。
無理やりバーコードにしている人。
かっこ悪いのは分かる。
隠したいのは,よく分かる。
自分だって禿よりは禿でないほうがいい。
でも,それって禿よりかっこ悪いと思う。

ここまで書いて,あることを思い出した。
アートネイチャーと言う会社では,お客様に「禿」とは決して言わないそうだ。
「薄毛の方」と呼ぶようにしているらしい。
それが会社の方針であるらしい。
何でこうも日本人というのは差別言葉を無くそうとするんだろう。
別にいいじゃん。
禿は禿だし。
と思っているが,ここからは「禿」という差別用語を使わないようにする。

改めて言う。
たもちゃんは頭髪の不自由な方なのだ。
頭髪の毛根に障害を持つ方なのだ。

実は,たもちゃんには立派な跡継ぎである息子がいる。
「やっち」という。
オイラの義兄である。
そのやっちも,頭髪に障害を持ってらっしゃる。

しかし,たもちゃんの薄毛の部分とやっちの薄毛の部分は微妙に違うのである。
たもちゃんは「河童型」。
やっちは「おでこ開発型」。
所謂「剃りこみ上等!型」。

頭髪の不自由さには,遺伝が大きい原因と聞くが,薄くなる部分も遺伝するものとオイラは思っていた。
今度行った時には,二人の違いをじっくりと観察しようと思っている。
出来れば,画像として残しておきたいと考えている。
こんなオイラは罰当たりかな。

木曜日, 2月 07, 2008

社長 vol.41

社長は金にうるさい奴だった。

数十万の借金のこととなると丼勘定で豪快なんだが,小金と言うよりみみっちいことで金を気にする奴だった。

ある時,社長はトイレですっきりした顔で出てきて,こうのたまった。

「ウ○コするときさあ~,水洗便所なら水代が掛かるし,ぼっとんだったら汲み取り料が掛かるんだよね。水洗便所なら水が、ン リットル使って,汲み取りなら、ン リットルでいくら掛かって・・・」

「すると,大体1回のウ○コすると,10円掛かるんだよね」

「だから家でしないで,外ですると10円儲かるんですよ,ひっひっひっひ」

ウ○コの値段なんか調べる奴は社長くらいなもんだろう。

しかも,社長は寮に住んでいるから得するわけじゃないし。

「○○○のキャッシングは,アドオン方式なんだよね」

「アドオン方式って何?」

当然オイラ達は知らない

「先輩,金を借りるじゃないですか。すると当然利子が掛かりますよね。

「普通のキャッシングは残高方式で,100万で20%とすると(云々かんぬん)。

「で,アドオン方式だと元金と利子を分割して払うから・・・

「つまり,実質の金利は2倍くらいの40%になるんですよ」

何故そこまで詳しい。

社長はしょっちゅう金を落としていた。

そして,嘆くのである。

金は殆ど剥き出しで,ポケットに入れていたせいである。

社長が歩くと小銭の音がジャラジャラと五月蝿かった。

「なんか,物買うとき小銭を出すのがめんどくさいんだよね」

ある時,社長はポツリとこう言った。

「足の小指はいくら位なんでしょうね。事故で無くなったら幾ら貰えるだろう。

「足の小指くらいなら無くてもいいし・・・」

体を金に換算するなよ。

「いやあ~,今度セブンに行こうかと思っているんですよ」

オイラ達は「?」である。

「先輩,質屋のことですよ。質屋」

「一回行ってみたいんですよ」

好き好んで質屋に行く奴はいないって。

「この時計ならいくらくれるかな?」

社長,質は基本的に買取じゃないから。

貸してくれるもんだから。

とにかくキャッシングは自分の貯金と思っている社長である。

金に関してのアドバイスを出来る奴は,社長の周りにはいなかった。

それでも社長は生きていた。

自転車操業で。

最近,サイマーのことをネットで知るようになったが,社長のような人間が沢山いることを知った。

社長は特別な存在ではないようだ。

社長は世界に一つだけの花ではないのである。

どこら中に咲いているタンポポのような存在である。

借金まみれのタンポポの花。

しかし,そのタンポポは,強く逞しい。