社長は金にうるさい奴だった。
数十万の借金のこととなると丼勘定で豪快なんだが,小金と言うよりみみっちいことで金を気にする奴だった。
ある時,社長はトイレですっきりした顔で出てきて,こうのたまった。
「ウ○コするときさあ~,水洗便所なら水代が掛かるし,ぼっとんだったら汲み取り料が掛かるんだよね。水洗便所なら水が、ン リットル使って,汲み取りなら、ン リットルでいくら掛かって・・・」
「すると,大体1回のウ○コすると,10円掛かるんだよね」
「だから家でしないで,外ですると10円儲かるんですよ,ひっひっひっひ」
ウ○コの値段なんか調べる奴は社長くらいなもんだろう。
しかも,社長は寮に住んでいるから得するわけじゃないし。
「○○○のキャッシングは,アドオン方式なんだよね」
「アドオン方式って何?」
当然オイラ達は知らない
「先輩,金を借りるじゃないですか。すると当然利子が掛かりますよね。
「普通のキャッシングは残高方式で,100万で20%とすると(云々かんぬん)。
「で,アドオン方式だと元金と利子を分割して払うから・・・
「つまり,実質の金利は2倍くらいの40%になるんですよ」
何故そこまで詳しい。
社長はしょっちゅう金を落としていた。
そして,嘆くのである。
金は殆ど剥き出しで,ポケットに入れていたせいである。
社長が歩くと小銭の音がジャラジャラと五月蝿かった。
「なんか,物買うとき小銭を出すのがめんどくさいんだよね」
ある時,社長はポツリとこう言った。
「足の小指はいくら位なんでしょうね。事故で無くなったら幾ら貰えるだろう。
「足の小指くらいなら無くてもいいし・・・」
体を金に換算するなよ。
「いやあ~,今度セブンに行こうかと思っているんですよ」
オイラ達は「?」である。
「先輩,質屋のことですよ。質屋」
「一回行ってみたいんですよ」
好き好んで質屋に行く奴はいないって。
「この時計ならいくらくれるかな?」
社長,質は基本的に買取じゃないから。
貸してくれるもんだから。
とにかくキャッシングは自分の貯金と思っている社長である。
金に関してのアドバイスを出来る奴は,社長の周りにはいなかった。
それでも社長は生きていた。
自転車操業で。
最近,サイマーのことをネットで知るようになったが,社長のような人間が沢山いることを知った。
社長は特別な存在ではないようだ。
社長は世界に一つだけの花ではないのである。
どこら中に咲いているタンポポのような存在である。
借金まみれのタンポポの花。
しかし,そのタンポポは,強く逞しい。