木曜日, 2月 07, 2008

社長 vol.41

社長は金にうるさい奴だった。

数十万の借金のこととなると丼勘定で豪快なんだが,小金と言うよりみみっちいことで金を気にする奴だった。

ある時,社長はトイレですっきりした顔で出てきて,こうのたまった。

「ウ○コするときさあ~,水洗便所なら水代が掛かるし,ぼっとんだったら汲み取り料が掛かるんだよね。水洗便所なら水が、ン リットル使って,汲み取りなら、ン リットルでいくら掛かって・・・」

「すると,大体1回のウ○コすると,10円掛かるんだよね」

「だから家でしないで,外ですると10円儲かるんですよ,ひっひっひっひ」

ウ○コの値段なんか調べる奴は社長くらいなもんだろう。

しかも,社長は寮に住んでいるから得するわけじゃないし。

「○○○のキャッシングは,アドオン方式なんだよね」

「アドオン方式って何?」

当然オイラ達は知らない

「先輩,金を借りるじゃないですか。すると当然利子が掛かりますよね。

「普通のキャッシングは残高方式で,100万で20%とすると(云々かんぬん)。

「で,アドオン方式だと元金と利子を分割して払うから・・・

「つまり,実質の金利は2倍くらいの40%になるんですよ」

何故そこまで詳しい。

社長はしょっちゅう金を落としていた。

そして,嘆くのである。

金は殆ど剥き出しで,ポケットに入れていたせいである。

社長が歩くと小銭の音がジャラジャラと五月蝿かった。

「なんか,物買うとき小銭を出すのがめんどくさいんだよね」

ある時,社長はポツリとこう言った。

「足の小指はいくら位なんでしょうね。事故で無くなったら幾ら貰えるだろう。

「足の小指くらいなら無くてもいいし・・・」

体を金に換算するなよ。

「いやあ~,今度セブンに行こうかと思っているんですよ」

オイラ達は「?」である。

「先輩,質屋のことですよ。質屋」

「一回行ってみたいんですよ」

好き好んで質屋に行く奴はいないって。

「この時計ならいくらくれるかな?」

社長,質は基本的に買取じゃないから。

貸してくれるもんだから。

とにかくキャッシングは自分の貯金と思っている社長である。

金に関してのアドバイスを出来る奴は,社長の周りにはいなかった。

それでも社長は生きていた。

自転車操業で。

最近,サイマーのことをネットで知るようになったが,社長のような人間が沢山いることを知った。

社長は特別な存在ではないようだ。

社長は世界に一つだけの花ではないのである。

どこら中に咲いているタンポポのような存在である。

借金まみれのタンポポの花。

しかし,そのタンポポは,強く逞しい。