『たもちゃん vol.10』
たもちゃんのマーが激しくなった。
以前でも書いたように,たもちゃんはパーキンソン病だけでなく,アルツハイマーでもある。
そのアルツハイマーが,この頃特に激しくなった。
たもちゃんの嫁のサキちゃんは,たもちゃんが毎日夜中に尿を排泄する度に起こしてあげている。
たもちゃんは一人でベッドから起きられないのである。
その回数は,夜中に3,4回にもなる。
サキちゃんは大変だ。
たもちゃんは,介護用の電動式ベッドに寝ている。
だから,本当は一人で起きようと思えば,その気になれば,起きられるのである。
しかし,たもちゃんは,我儘なのである。
兎に角,人に頼ろうとする。
特にサキちゃんや娘に甘える。
何かする度に,ぶつぶつと小声で
「フランソワ,やってくれんかなあ」「サキ,手が届かないよ」「足が重たい」
などと呟く。
それを聞いたらサキちゃんを初め,2人の娘は,
「もう,しょうがない」
と言いながら,幾度となく手伝ってやっている。
オイラから見ると3人は,少し甘やかし過ぎだと思う。
まあ,兎に角,甘えん坊のたもちゃんなのである。
ある日,サキちゃんが,老人大学(まあ,所謂老人クラブだ)に行ったときの事である。
たもちゃんとサキちゃんが言い争いになった。
たもちゃんは,サキちゃんが老人大学に行くのを快く思っていないのである。
何故なら,他に男がいると思い込んでいるのである。
「お前は○○さんちの××と,この頃仲がいいな」
「この間,××さんがお前のことを迎えに来てたぞ(真っ赤な嘘)。そんな約束,何時した?」
「俺が体を動かせないからって他の男と仲良くしなくてもいいじゃないか」
年を食ってからの嫉妬心は凄いものがある。
たもちゃんも,その嫉妬心から逃れることが出来なかった。
老人大学から帰ってきたサキちゃんに,たもちゃんは宣言した。
「今日から俺は,お前と一緒に寝る」
たもちゃんは,別の部屋で寝ていたのであるが,その日からサキちゃんと同衾するようになった。
75歳を越して一緒に寝て何をするのだろう?
体を思うように動かせないたもちゃんが何をするのだろう?
そんな周りの思惑にも拘らず,たもちゃんはサキちゃんと一緒寝られて,ひどく満足気であった。
その反面,サキちゃんの苦労が大きくなったのは,言うまでもない。
サキちゃんの苦労をよそに,たもちゃんは平気な顔をして過ごしている。
自分が満足すればそれでいいという,悪魔のように成り果ててしまったたもちゃんである。