12
ある日、マヒロおねえちゃんが言った。
「剛君、よく聞いて。
「剛君はここで大人になるの。前の世界で大人になれなかったから、ここで大人になるの」
「じゃあ、マヒロおねえちゃんもここでおとなになるの?」
「いいえ。私はこれから行かなくちゃならないの。
「私は自殺したヒトだから。
「自殺をしたヒトはここでは大人になれないの。
「剛君はここで大人になって、それからとても明るくて、安らかで、暖かい綺麗な所で生まれ変わるまで暮らすの。
「私は暗く、冷たい場所で生まれ変わるまで暮らすの。
「一緒にいられる時間は、あと僅かしかないの。
「もう、剛君とはお別れの時が近いの。
「そして、生まれ変わったらもう私の事は覚えていないの。
「さよなら。剛君」
マヒロおねえちゃんのすがたがうすくなっていく。
ボクはじっとそれを見つめている。
さよなら。マヒロおねえちゃん。
いっしょにいてくれてありがとう。
ボクはここでクルミの木といっしょにくらすんだね。
そして、おとなになるんだね。
ボクは、はるかかなたのちへいせんをずっと見つめている。
おとなになる。
それはどういうことなのかはわからない。
けれど、いつかはわかるかもしれない。
その日がいつかわからないけれど。
なにかをボクは見つける。
なにかが見つかったとき、クルミの木の下に帰ってくるのかな。
ボクは、歩き出した。
ちへいせんのかなたをめざして。
なにかが、きっとなにかが見つかると思いながら。