木曜日, 8月 30, 2007

胡桃の樹の下で 12

   12

 ある日、マヒロおねえちゃんが言った。

「剛君、よく聞いて。

「剛君はここで大人になるの。前の世界で大人になれなかったから、ここで大人になるの」

「じゃあ、マヒロおねえちゃんもここでおとなになるの?」

「いいえ。私はこれから行かなくちゃならないの。

「私は自殺したヒトだから。

「自殺をしたヒトはここでは大人になれないの。

「剛君はここで大人になって、それからとても明るくて、安らかで、暖かい綺麗な所で生まれ変わるまで暮らすの。

「私は暗く、冷たい場所で生まれ変わるまで暮らすの。

「一緒にいられる時間は、あと僅かしかないの。

「もう、剛君とはお別れの時が近いの。

「そして、生まれ変わったらもう私の事は覚えていないの。

「さよなら。剛君」

 マヒロおねえちゃんのすがたがうすくなっていく。

 ボクはじっとそれを見つめている。

 さよなら。マヒロおねえちゃん。

 いっしょにいてくれてありがとう。

 ボクはここでクルミの木といっしょにくらすんだね。

 そして、おとなになるんだね。

 

 ボクは、はるかかなたのちへいせんをずっと見つめている。

 おとなになる。

 それはどういうことなのかはわからない。

 けれど、いつかはわかるかもしれない。

 その日がいつかわからないけれど。

 なにかをボクは見つける。

 なにかが見つかったとき、クルミの木の下に帰ってくるのかな。

 ボクは、歩き出した。

 ちへいせんのかなたをめざして。

 なにかが、きっとなにかが見つかると思いながら。

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