この間,2chを見ていたら,社長を思い出した。
それは,古く汚れた10円玉をピカピカにする方法だった。
2chでは,色々な方法が書かれていたが,社長のやり方は,次の通りであった。
10円玉をソースに浸すという方法である。
社長は学食でこの方法をオイラ達に教授してくれた。
その教授方法が実に社長らしかった。
何をしたか。
社長は,学食にあった湯飲み茶碗に10円玉を入れ,その後,ドボドボとウスターソースを入れた。
いや,入れたというものではない。
なみなみと注いだのである。
湯飲み茶碗は溢れんばかりだった。
そして,その中に指を突っ込み,10円玉を取り出した。
「あれ?あんまり綺麗にならないですね」
「もう少し時間を掛けてみましょう」
「あれ,まだ綺麗にならないですね」
「もうちょっと置くと綺麗になりますから。先輩」
時々取り出しては,10円玉を指で擦っていた。
そして,ウスターソースの付いた指は,口へと運ばれ,最終的には自分のトレーナーでソースと唾液を拭っていた。
時が経った。
時計は12:45。
そろそろ午後の講義の始まりである。
オイラ達はあせっていた。
何故か?
講義に遅れて行くと,いい席が確保できないからである。
いい席とは,言うまでも無く教授から最も遠く,見えづらい席のことである。
オイラ達は不真面目な学生であるからである。
しかし,そんなオイラ達の思惑とは裏腹に,社長は泰然としていた。
勿論,KYである。 ・
いや,正確には「空気を読まない」のである。
「S,もう行くぞ」
オイラ達は社長を促す。
「いや,もうちょっと待って下さい。綺麗になりますから」
10円玉をコシコシ。指を舐め舐め。
「もういいって」
それでも,10円玉をコシコシコシ。指を舐め舐め舐め。
「いや,本当に綺麗になりますから」
更に10円玉をコシコシコシコシ。指を舐め舐め舐め舐め。
「だから,それはこの次でいいって」
コシコシコシコシコシコシ。舐め舐め舐め舐め舐め。
「先輩,本当ですから。嘘じゃないですから」
講義が始まろうが,オイラ達がいい席を確保したい思いを持っていること等,そんなことはどうでもいいのである。
社長にとって,この時は,10円玉をピカピカにする方法が正しい情報であることをオイラ達に証明するのが,最優先事項であったのだ。
12:55,ついに社長は実験の検証を諦めた。
ソースのなみなみと入った湯飲み茶碗に指を突っ込み,10円玉を取り出すと,その10円玉を着ていたトレーナーで拭き取った。
指も同じように拭き取ったのは言うまでもない。
そして,何事も無かったかのように講義に向かった。
そんな社長がオイラには理解不能であった。
理解したくても理解したくなかった。
オイラは,社長というものから現実逃避をしていたのである。
社長のいつも着ているトレーナーは,オレンジ色から,迷彩服のような物へと変化していた。
ところどころに茶色の染みが付いていた。
しかし,そんな服を着ていながらも,社長の顔から得意気な表情は消えなった。
そう,社長にとって服とは暖かければそれでいいのである。
「流行の服装に敏感でなければならない,人間は服のセンスが大事だ」そんな脅迫概念に囚われている人は,社長を見習え。
楽に暮らせるぞ。
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