『たもちゃん vol.8』
オイラの嫁が小学生の頃の話だったという。
北海道の短い,そして暑い夏の日だった。
たもちゃんは「トヨエス」を運転していた。
「トヨエス」とは,その頃農家で多く使われていたトラックの種類である。
オイラと嫁の推理では「トヨタ エース」の略と睨んでいる。
たもちゃんが運転していた理由は,製糖工場へ行くためだった。
助手席には,オイラの嫁が乗っていた。
幼い嫁は,昼下がりの暑い日差しの中,熟睡していた。
その頃は,車にエアコンなんて殆ど無かった。
ましてや,トラックには付いているわけも無い。
当然,窓は全開である。
窓からは風のほかに,色々な物が入ってくる。
その時は,蜂が入ってきたらしい。
いきなり狭い空間に閉じ込められた蜂は,身を守るために必死だった。
その結果,蜂は寝ていた嫁を攻撃目標にした。
当然,幼い嫁は痛さで目が醒め,泣いた。
たもちゃんはトラックを停めた。
そして,愛しい娘を苦痛から解放するために行動した。
当然の親子愛である。
誰もたもちゃんを責めることはできやしないだろう。
たもちゃんの取った行動は,蜂に刺された我が子の頬に,アンモニアをかけたことだった。
自家製の。
しかも,おもいっきり。
幼い嫁は,さらに大きく泣いた。
今度は,痛さのためではない。
あまりの異臭にだ。
そう,たもちゃんは我が子に顔面シャワーを浴びせたのだ。
自分の手に少量の尿を取って,刺されたところに付けたのではない。
もろに浴びせたのである。
恐るべし,たもちゃん。
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