木曜日, 11月 08, 2007

『社長 vol.40』

 『社長 vol.40』

 以前にも書いたことがあるが,オイラのゼミには同輩のOという可愛い子(勿論女)がいた。

 芸能界で言えば・・・

 オイラの知り合いの独身,40歳のSさんに似ている(断言&イミフ)。

 芸能界で言えば誰だろう・・・

 う~ん・・・

 思い当たらない。

 まあ,しかし,美人は美人であった。

 

 彼女は,芸能界が大好きっ子であった。

 特に松田聖子が好きであった。

 自分自身も芸能界に,入りたくて入りたくて堪らず,何度もオーディションを受けていた。

 勿論,合格するはずもない。

 合格していたら,大学を卒業できるわけがない。

 性格も悪くは無かった。

 天然ボケのところもあったが,巷でよく言われる「美しい花には棘がある」と言う格言には抵触していなかった。

 

ところが,ある時を境目に,彼女は男子学生からガイマ(はじき出されること。北海道弁か?)にされていた時期があった。

 恥ずかしい話だが,オイラも少しシカトしていた。

 その理由は,1年上の先輩と付き合うようになったからだ。

 殆どの男子学生が,「自分が(付き合って貰おう)」と狙っていたわけだから。

 男の嫉妬は見苦しい。

 実に見苦しい。

 丁度,松田聖子の「赤いスイートピー」が流行った後のことである。

 彼女は,歯痛の為,大学を数日間休んだ。

 以前はちやほやしていた男子学生だが,そんなことを気にする奴はいなかった。

 しかし,一人だけ例外がいた。

 社長である。

 彼はある夜,花束を持って見舞いに行った。

 その花は勿論,赤いスイートピーである。

 いつもの社長スマイル(口を「ニー」としながら何度も頷く)で,

Oさん,これがスイートピーですよ。今まで見たことなかったでしょ」

 と言いながら手渡したそうである。

 オイラ達は,その話が信じられなかった。

 だって,もう唾の付いた商品だ。

 今さら,見舞いに行ったってしょうがない。

 無駄である。

 もう,オイラ達には価値のない商品である。

 しかし,社長は一味違っていた。

 オイラ達は,社長を褒め称えるべきなのか,笑ったほうがいいのか。

 これに関しての討論は,1週間以上に及んだ。

火曜日, 9月 11, 2007

たもちゃん 10

 『たもちゃん vol.10』

 たもちゃんのマーが激しくなった。

 以前でも書いたように,たもちゃんはパーキンソン病だけでなく,アルツハイマーでもある。

 そのアルツハイマーが,この頃特に激しくなった。

 たもちゃんの嫁のサキちゃんは,たもちゃんが毎日夜中に尿を排泄する度に起こしてあげている。

 たもちゃんは一人でベッドから起きられないのである。

 その回数は,夜中に3,4回にもなる。

 サキちゃんは大変だ。

 たもちゃんは,介護用の電動式ベッドに寝ている。

 だから,本当は一人で起きようと思えば,その気になれば,起きられるのである。

しかし,たもちゃんは,我儘なのである。

 兎に角,人に頼ろうとする。

 特にサキちゃんや娘に甘える。

 何かする度に,ぶつぶつと小声で

 「フランソワ,やってくれんかなあ」「サキ,手が届かないよ」「足が重たい」

 などと呟く。

 それを聞いたらサキちゃんを初め,2人の娘は,

 「もう,しょうがない」

 と言いながら,幾度となく手伝ってやっている。

 オイラから見ると3人は,少し甘やかし過ぎだと思う。

 まあ,兎に角,甘えん坊のたもちゃんなのである。

 ある日,サキちゃんが,老人大学(まあ,所謂老人クラブだ)に行ったときの事である。

 たもちゃんとサキちゃんが言い争いになった。

 たもちゃんは,サキちゃんが老人大学に行くのを快く思っていないのである。

 何故なら,他に男がいると思い込んでいるのである。

 「お前は○○さんちの××と,この頃仲がいいな」

 「この間,××さんがお前のことを迎えに来てたぞ(真っ赤な嘘)。そんな約束,何時した?」

 「俺が体を動かせないからって他の男と仲良くしなくてもいいじゃないか」

 年を食ってからの嫉妬心は凄いものがある。

 たもちゃんも,その嫉妬心から逃れることが出来なかった。

 老人大学から帰ってきたサキちゃんに,たもちゃんは宣言した。

 「今日から俺は,お前と一緒に寝る」

 たもちゃんは,別の部屋で寝ていたのであるが,その日からサキちゃんと同衾するようになった。

 75歳を越して一緒に寝て何をするのだろう?

 体を思うように動かせないたもちゃんが何をするのだろう?

 そんな周りの思惑にも拘らず,たもちゃんはサキちゃんと一緒寝られて,ひどく満足気であった。

 その反面,サキちゃんの苦労が大きくなったのは,言うまでもない。

 サキちゃんの苦労をよそに,たもちゃんは平気な顔をして過ごしている。

 自分が満足すればそれでいいという,悪魔のように成り果ててしまったたもちゃんである。

木曜日, 8月 30, 2007

胡桃の樹の下で 12

   12

 ある日、マヒロおねえちゃんが言った。

「剛君、よく聞いて。

「剛君はここで大人になるの。前の世界で大人になれなかったから、ここで大人になるの」

「じゃあ、マヒロおねえちゃんもここでおとなになるの?」

「いいえ。私はこれから行かなくちゃならないの。

「私は自殺したヒトだから。

「自殺をしたヒトはここでは大人になれないの。

「剛君はここで大人になって、それからとても明るくて、安らかで、暖かい綺麗な所で生まれ変わるまで暮らすの。

「私は暗く、冷たい場所で生まれ変わるまで暮らすの。

「一緒にいられる時間は、あと僅かしかないの。

「もう、剛君とはお別れの時が近いの。

「そして、生まれ変わったらもう私の事は覚えていないの。

「さよなら。剛君」

 マヒロおねえちゃんのすがたがうすくなっていく。

 ボクはじっとそれを見つめている。

 さよなら。マヒロおねえちゃん。

 いっしょにいてくれてありがとう。

 ボクはここでクルミの木といっしょにくらすんだね。

 そして、おとなになるんだね。

 

 ボクは、はるかかなたのちへいせんをずっと見つめている。

 おとなになる。

 それはどういうことなのかはわからない。

 けれど、いつかはわかるかもしれない。

 その日がいつかわからないけれど。

 なにかをボクは見つける。

 なにかが見つかったとき、クルミの木の下に帰ってくるのかな。

 ボクは、歩き出した。

 ちへいせんのかなたをめざして。

 なにかが、きっとなにかが見つかると思いながら。

水曜日, 8月 29, 2007

胡桃の樹の下で 11

   11

 気づいたら、ボクはマヒロおねえちゃんのひざの上でねていた。

 マヒロおねえちゃんはボクのあたまをなでてくれていた。

「寝なさい、ゆっくりと。そうすればいろんなことが分かるようになるわ」

 ボクはまたねた。

 どれくらいたったのだろう。

 きづいたらマヒロおねえちゃんはいなかった。

 ボクはぼんやりとしている。

 すると、マヒロおねえちゃんがヘルメットをもってやってきた。

「剛君、喉乾いたでしょう」

 マヒロおねえちゃんはヘルメットをわたしてくれた。

 ボクはごくごくとのんだ。

 おいしかった。

 つめたくて。

あまくて。

その日からボクとマヒロおねえちゃんとのせいかつがはじまった。

ボクは木の上に上ってうたをうたう。

シャボン玉をうたう。

マヒロおねえちゃんは木のかげで本をよんでいる。

おなかがすくとクルミを食べた。

のどがかわくと、いずみの水をのんだ。

そして、マヒロおねえちゃんとボクはいっしょにねむった。

火曜日, 8月 28, 2007

胡桃の樹の下で 10

   10

 ボクは、木のねもとでかんがえた。

 どうして、ここにいるのかな?

 パパやママはどこなんだろう?

 どうしてだれもいないんだろう?

 そんなことをかんがえてるとうしろから声が聞こえた。

「剛君」

 ふりかえるとマヒロおねえちゃんがいた。

「マヒロおねえちゃん。いつ、ここに来たの?」

「知らないの。気付いたら剛君の後ろにいたの」

 なんだかふしぎだ。

 ボクはしらないうちにここにいた。

 マヒロおねえちゃんもそうだ。

 いったいなんだろう。

 わからないから、かんがえないことにした。

「ねえ、マヒロおねえちゃん、おなかがすいた?」

「うん、少し」

「ほら、ここにクルミがたくさんあるよ。マヒロおねえちゃんも食べない?」

「あ、本当だ。沢山あるね」

「ボクが、からをわってあげるよ」

 ボクは石でクルミをわる。

 そして、マヒロおねえちゃんにあげた。

 マヒロおねえちゃんは、おいしそうに食べている。

 ボクはマヒロおねえちゃんに会えてうれしかった。

 だから、たくさんクルミをわった。

 ボクも少し食べた。

「ねえ、剛君。何か覚えていることはない?」

 ボクはなんて言ったらいいのかわからなかった。

 だから、だまってしまった。

 マヒロおねえちゃんはボクをじっと見つめている。

「剛君は本当に前の事、覚えていないの?」

 ボクはこまってしまった。

 だって、おぼえていないんだもの。

 マヒロおねえちゃんはボクの目のおくをじっと見つめてこう言った。

「剛君はね、死んだの」

 マヒロおねえちゃんは、かなしそうなこえで言った。

「ボク、しんだの?」

「そう、死んでしまったの。だからここにいいるの」

「じゃあ、ここは天国?」

「違うと思うわ。天国ならもっと沢山のヒトがいるはずだもの」

「じゃあ、ここはどこ?」

「私もわからない。でも想像はしているの」

「どんな?」

「ここはきっと変死してしまった人が天国や地獄に行く前の場所だと思うの」

「ヘンシってなに?」

「あのね、剛君の場合は殺されたの」

「だれに?」

マヒロおねえちゃんは、こまったようなかおをした。

マヒロおねえちゃんは、だまっている。

「ねえ、おしえて。ボクはだれにころされたの?」

マヒロおねえちゃんは、小さな声で言った。

「剛君のパパに」

 ボクは、マヒロおねえちゃんがなにを言ってるのか、さっぱりわからない。

「もう一ど言って」

 マヒロおねえちゃんは、ひとことずつくぎるように言った。

「剛君は、剛君の、お父さんに、頭を、灰皿で、殴られて、殺されたの」

 こんどははっきりとわかった。

 ボクは殺された。

 ボクはパパにころされた。

 ボクはなぐられてころされた。

 どうして?

 どうして?

 ボクはあたまがいたくなった。

 すごくいたくなった。

月曜日, 8月 27, 2007

胡桃の樹の下で 9

   9

 夕日がとっても赤かった

 ランドセルが重い。

 きょうかしょやノートだけではないから。

 ランドセルには石が入っているから。

 ショウ君がうしろからついてくるから、ランドセルから石を出せない。

 そんなことをすると、またパンチされる。

 あたまをぼっこでつっつかれる。

 うしろをふりむくと、ケイイチ君がニヤニヤわらってる。

 ボクは心の中でためいきをつく。

 こんどは、ジュン君がキックしてきた。

 せなかがいたかった。

 でもボクはなかない。

 だって、ないたらもっとキックされる。

 早くうちにかえりたい。

 

 はっぱのふとんから目をさますと、なみだがでていた。

 今のゆめはなに?

 ボクってこんなことされていたの?

 木がざわざわと音を立てる。

 ボクをなぐさめてくれているのかな。

 くるみの木さん、ありがとう。

 そういえば、のどがかわいた。

 水をのもう。

 ボクはいずみに行った。

 どこまでもとうめいな水を手のひらですくう。

 つめたい。

 でも、きもちがいい。

 ボクはたくさん,水をのんだ。

 何回も何回もすくってのんだ。

 それでも水はいくらでもわいて出てきていた。

 ボクは、木の下にもどった。

 木に話しかける。

 「さっきのゆめはなに? ボクは前にいじめられていたの?」

 木はさわさわと音を立てる。

 気にするんじゃない、と言ってるようだった。

 「うん。そうだね」

 ボクは木にこたえた。

 また、木がさやさやと音を立ててゆれている。

 「そうだよ」と言っているようだった。

日曜日, 8月 26, 2007

胡桃の樹の下で 8

   8

目がさめたとき、おなかがなった。

そういえば何も食べてないなと思った。

どこかに食べもの、ないかな。

そう思ったとき、上からなにかがおちてきた。

ぽとっぽとっ。

ボクはなにがおちてきたか見に行った。

茶色くなったしわしわの木の実。

そとのかわはすぐにむけた。

むいてみるとくるみだった。

木のまわりをぐるっとまわってみると、たくさんくるみがおちていた。

ボクはくるみをひろいあつめた。

きっとこの木がボクのためにおとしてくれたんだ。

この木はくるみの木だったんだ。

 ボクは、石をひろってきた。

 石でくるみをたたいてわった。

 中のみをえだでほじくりだして食べた。

 ちょっとにがくてちょっとあまい。

 おなかがすいていたから、いくらでも食べられた。

 おなかがいっぱいになると、またねむくなった。

 木のはのふとんでねむった。

土曜日, 8月 25, 2007

胡桃の樹の下で 7

   7

目をさますとくらかった。

おなかがすいた。

でも、ママはいない。

だいどころに行った。

だいどころは、いつものようにきたなくてくさかった。

れいぞうこをあけた。

中には、ビールしかなかった。

いつもパパやママがのむやつ。

食べものはなにもなかった。

すいはんきをあけた。

少しだけど、ごはんが入っていた。

しゃもじでごはんをすくって、ちゃわんに入れた。

ぱりぱりと音がした。

ぱりぱりのごはんにしょうゆをかけて、食べた。

ぽりぽりと口の中で音がする。

かたくてなかなかかめない。

でも、おなかがすいていたので、食べた。

もっと食べたい。

でも、ごはんはもうない。

外では、あかやきいろの光がチカチカしていた。

ママもパパもかえってこない。

ボクはひとり。

金曜日, 8月 24, 2007

胡桃の樹の下で 6

   6

 ボクはうたを思いだした。

 なんていう、うただったかな。

 そうだ。

 シャボンだまだ。

 

 しゃぼんだま とんだ

 やねまで とんだ

 やねまで とんで

 こわれて きえた

 かぜ かぜ ふくな

しゃぼんだま とばそう

ボクは小さな声でうたった。

木もさらさらとゆれて、いっしょにうたっているようだった。

なんだかちょっとかなしくて、うれしかった。

べつべつのきもちがまざって、なんだかへんな気分だった。

そして、木からおりた。

なんだかまたねむくなちゃった。

はっぱのふとんでまたねた。

木曜日, 8月 23, 2007

胡桃の樹の下で 5

   5

 ママがボクになにか言ってる。

 ママのかおは、おにのようだ。

 目がつりあがっていてこわい。

 ボクはおしいれの中ににげた。

 ママがあけられないように、力いっぱい、戸を手でおさえた。

 ママが力をこめて戸をあけようとしているのがわかる。

 ボクはひっしで戸をおさえた。

 でもだめだった。

 ママのほうが力があった。

 戸はあいてしまった。

 ボクはおしいれからひっぱりだされる。

 ママがボクをなぐる。

 ボクはいっしょうけんめいあやまる。

 でも、ママはなにもきいてくれない。

 なんかいもなんじっかいもボクをたたく。

 ボクはいたくて、かなしくて、なみだをぽろぽろとこぼした。

 いたさもそんなにかんじなくなったとき、ママはボクをたたくのをやめて、へやを出て行った。

 ボクはねころがったまま。

 目をさますと、ボクの目になみだがついていた。

 ボクは手でそのなみだをふいた。

 木はかぜにゆられて、ざわざわといっていた。

 なんだかボクをはげましてくれているようだった。

 ボクはヘルメットをもっていずみに行った。

できるだけたくさんの水をくんだ。

でも、木のところについたときには半分くらいにへっていた。

その水を木にかけてあげた。

木がさわさわといった。

おれいを言っているようだった。

なんだか、木がもっとそばへおいでと言っているようだったので、木にのぼってみた。

木にのぼるのははじめてじゃない。

前にもこうえんの木をのぼったことがある。

この木よりももっと小さかったけど。

いちばん下のえだをしっかりと手でつかんだ。

そして、こぶになったところに足をかけた。

大きいけれど、のぼるのはそんなにむずかしそうじゃない。

 けっこうかんたんにのぼることができた。

 木の上から見えるけしきはよかった。

 ずっとずっとむこうまで見えた。

 でも、ずっとずっとむこうにはなにも見えなかった。

 どこまでも、原っぱが広がっていた。

 

水曜日, 8月 22, 2007

胡桃の樹の下で 4

   4

 ボクは水をくむものをさがしにいった。

 原っぱの中を、なにかないかと思ってさがしまわった。

 いろいろさがした。

 原っぱがとぎれたところに白いものがおちていた。

 ヘルメットだった。

 ヘルメットには、金色のぎざぎざのバッジがついていた。

 むずかしいかんじもかいてあった。

 「北海道警察」

 よくわかんない。

 でも、水をくむのにちょうどいい。

 こんどからはこれをつかおう。

 ボクはヘルメットをだいて木にもどった。

 なんだか木もボクをしんぱいしていたような気がする。

 たくさん歩いたのでつかれた。

 ボクはねることにした。

 木がおとしてくれたはっぱにもぐりこんでねた。

火曜日, 8月 21, 2007

胡桃の樹の下で 3

   3

 先生がなにか言ってる。

 ボクのかおをじっと見てなにか言ってる。

 先生の声がよくきこえない。

 でも、なんだか先生はおこっているようだ。

 まわりのみんなはボクのほうをじっと見ている。

 ボクはなにもわからないからじっとしている。

 先生がボクのそばに来た。

 そして、きょうかしょでボクのあたまをたたいた。

 なんでたたかれたのか、わからない。

 そんなにいたくはなかったけれど、なみだがでた。

 まわりのみんなはボクをばかにしたような目で見ているだけ。

 ボクの心はちくりとした。

 そこでゆめがさめた。

 おきあがろうとすると、がさがさという音がきこえた。

 ボクの上には、たくさんのはっぱがのっていた。

 ねるまえには、はっぱがなかったから、ねているうちにボクをつつんでくれたんだろう。

 はだざわりはよくないけれど、とてもあたたかかった。

 ボクははっぱをどけておきあがる。

 木に水をあげなくっちゃ。

 きっと木ものどがかわいてるはず。

 ボクはいずみに行って手のひらで水をくんできた。

 そしてそっと木のねもとに水をあげた。

 なんかいも水をあげた。

 ちょっとつかれた。

ボクも水をのんだ。

 でも、この木は大きいからもっと水をあげなくちゃ。

 もっといっぺんにあげることができないかな。

月曜日, 8月 20, 2007

胡桃の樹の下で 2

   2

 今日からボクはここにすむことにした。

 この木といっしょ。

 なんだかこの木はボクを守ってくれそうな気がしたんだ。

 ボクは木に水をあげる。

 木はボクにすずしいこかげをつくってくれる。

 キョウゾンキョウエイというのかな。

 ボクはこの木がすきだし、きっとこの木もボクのことをすきだと思う。

 ボクはきっとこの木を守るためにここに来たのだと思う。

 もしかしたら、この木がボクをよんだのかもしれない。

 どっちにしてもボクはかまわない。

 ボクはこの木がすきだし、ずっとここにいようと思ってる。

 なんだかねむくなってきた。

 ずっと歩いたし、この前、いつねたのかもおぼえていない。

 ちょうど少し木のくぼんだところがある。

 ここでねよう。

日曜日, 8月 19, 2007

胡桃の樹の下で 1

   胡桃の樹の下で

 ボクは、いつからここにいるのかわからない。

 気がついたらここにいた。

 ここはあたたかで、きもちがいい。

 ときどきふく風もつめたくない。

 ここはとっても広い。

 いくら目をこすったって見えるのは地平せんだけだ。

 ボクは原っぱをずっと歩いた。

 なんじかんも。

 ときどき、休んだ。

 ここにはいろんな所にいずみがある。

 つめたくてすきとおったきれいな水だ。

 ボクはその水を手のひらですくってのんだ。

 とてもおいしい。

 3回休んだとき、むこうになにかが見えた。

 ちかづいていくと、それは大きな木だった。

 ボクは木の下までいった。

 その木は大きくてりっぱでたくましかった。

 なんだかボクはその木がすきになった。

火曜日, 7月 31, 2007

『たもちゃん vol.9』

 『たもちゃん vol.9』

 たもちゃんが家にやって来た。

 何年振りだろう。

 兎に角,今の家に引越しをしてから,初めてやって来ることになった。

 まず,やって来る前に一騒動があった。

 出かけようとする直前,たもちゃんは意識不明になった。

 義母や義姉が出かける準備をしている時に,突然なったらしい。

 目は虚ろ。

 口からは涎。

 頬っぺたを叩いても,肩をゆすっても,返事が無い。

 義母と義姉は,もう駄目だ,救急車を呼ぼうかというところまで思ったと言う。

 そこで不図,義母はたもちゃんの口が開いていたため,飴玉を放り込んだ。

 すると,たもちゃんは僅かではあるが,意識を取り戻した。

 たもちゃんは低血糖になったため,意識が朦朧としてしまったのだ。

 後に義母は,

「あの時,意識が戻らなかったら,今頃ドライブなんかしてないで,葬式はどうしようという話になったね」

 と述懐した。

 まあ,兎に角,周りを驚かせたが,何とか我が家に無事にやって来た。

 久々に見るたもちゃんは,以前にも増して,病が進行していた。

 歩く姿は,腰を30度程曲げ,足をヨチヨチさせている。

 膝を普通に上げることが出来ない。

 殆ど引き摺るも同然の歩き方だ。

 我が家にやって来たたもちゃんが,まずしたことは,小用であった。

 体の自由がきかないため,たもちゃんはトイレの前で義母と嫁の手によって下着を剥ぎ取られた。

 オイラはその後姿を見ていたのだが,足と足の間から大きな大きなフグリが見えた。

 びよ~んと伸びきった,今は用済みの器官である。

 その姿は,哀れではあるが,ちょっと滑稽でもあった。

 次の日,オイラはたもちゃんと義母と嫁を乗せて,ドライブに行った。

 たもちゃんたちはまだ,富良野のラベンダー畑を見たことが無かったのである。

 ラベンダー畑について,車から降りる時も簡単にはいかなかった。

 もう足を思うように動かせないのである。

 嫁と義母から叱咤激励を受けながら,車からようやく降りた。

 その後,両脇を嫁と義母が支えていたのだが,たもちゃんはずるかった。

 支えてもらっている時は,よたよたとしながら体重を預けるのだが,一人にさせるとちゃんとそれなりに歩くのである。

 嫁と義母にそう指摘されたたもちゃんは,ニヤッと笑うだけだった。

 たもちゃんは病気をいいことに,怠け者になってしまったのである。

 ずるをするようになったのである。

 「仏のたもちゃん」が「頑固なたもちゃん」になり,今度は,「ずるのたもちゃん」になった。

 オイラと嫁はこれが最後のたもちゃんの旅行になるだろうと話した。

 この時撮った写真は,大きく引き伸ばして印刷した。

 まず,葬儀用の写真にならないと思うが。

 家に帰ってから,暑かったのでアイスを食べようとオイラは考えた。

 たもちゃんにもアイスを食べるかと聞いてみた。

 案の定,たもちゃんは,にやりと笑った。

 そして,嬉しそうにアイスを口から溢しながら食べていた。

 勿論,嫁はそんなたもちゃんを叱っていた。

 たもちゃんは,2日前に意識が無かったというのに,元気であった。

 たもちゃんの葬儀はまだまだやってこないだろう。

木曜日, 7月 05, 2007

社長 39

 『社長 vol.39』

 コンパか何か,飲み会の時だったと思う。

 同期で,同じゼミの先輩Tと付き合っていたSKという女がいた。

 SKは,何かの拍子でぽろっと,本当にぽろっと言ってしまった。

 SKがT先輩とHした後,彼はぐっすり眠っていたらしい。

 そこで,SKがしたことは・・・

 なんとT先輩のポコ○ンをサランラップで包んだらしい。

 コンパは大爆笑の渦に巻き込まれた。

 そして,誰かが何故そんなことをしたのか聞いてみた。

 彼女の答えは簡潔にして明瞭だった。

 「だって,アソコが痛んだら困ると思ったんだもん」

 それを聞いて周りはさらに大爆笑した。

 しかし,その後の社長の言葉が凄かった。

 「ふ~ん,腐りやすいほど柔らかかったんだ,その『ピーッ』(放送禁止用語)」

 周りは一瞬,しんとした空気に包まれた。

 彼女はポ○チンを「アソコ」と言っていた。

 社長はもろに性器の俗称を言った。

 勿論,その席には多数の男女がいたのは,言うまでも無い。

 老若男女と言ってもいい位の。

 まあ,当然社長だからそれ位は大したことがない。

 追い討ちをかけるように,また言った。

 「そんな柔らかい『ピーッ』(男性のシンボル)だったら,『ピーッ』(女性のシンボル)に入らないでしょう?」

 「ひっひっひっひ,T先輩の『ピーッ』はふにゃ『ピーッ』なんだ」

 連続の放送禁止用語に我々は打ちのめされた。

 しかも,恐れ多くも先輩の悪口である。

 ばれたら,絶対に苛められる。

 しかも,そのTという先輩はキレやすくて有名だった。

 そして更に,生物のゼミナールの学生である社長は,生物学的用語を駆使しながら

 SKとTのHについて熱く語り始めた。

 勿論,想像である。

 想像でも彼はその手の話なら,いくらでも語り明かせるのである。

 その夜,誰も,そんな社長を止めることは出来なかった。

日曜日, 5月 20, 2007

『社長 vol.38』

 『社長 vol.38』

 社長は,ほとんど変態と言ってもおかしくない性癖の持ち主であったが,誰からも好かれていた。

 特に,ゼミの教授に可愛がってもらっていた。

 その教授は,独身女性であった。

 もしかすると,一見とっつぁんぼうや的な風貌が母性本能をくすぐったのかもしれない。

 社長は,人物批判に於いて一目置かれていた。

 ある講義の時だった。

 その時の講師は,社長のゼミの教授だった。

 隣に座ったN2が社長に何か書いて渡した。

 「今日のチャコ(教授の名はヒサ子だった)の服装を解説・批判せよ」

 社長は,一心不乱に書き込んでいた。

 勿論いつものように,左手でぎこちなく。

 出来たその論文は,素晴らしいものであった。

 「まず,服の下地が白である。これは,彼女の清廉・純潔を表すと同時に,いつでも貴方とならOKよというサインでもある。これを放って置く手は無い。君は果敢にアタックをすべきである。

「第2に,服の柄である椰子の木の葉等は,まさにトロピカルを髣髴させ南国情緒を醸し出している。と同時に南国特有の自由恋愛と情熱をも表している。これも異性に対する自己アピールである。即刻行動に出るがマナーというものであろう。

「第3に,柄の葉の色は緑である。緑は自然を最も表す色彩である。言うまでもなく,これは屋外での行為を望んでいるのである。しかも積極的に。青空の下での行為が彼女の嗜好なのであろう。

「第4に,スカートの赤が述べていることは,言うまでもなく情熱である。深い愛情である。と同時に処女喪失の時の証の色とも読み取れる。つまりは,私のすべてを貴方に捧げますという彼女の決意の表れである。君はその決意を真摯に受け止めるべきである。

「総合的に見て,今日の彼女は積極的で情熱的である。この講義が終了した後,果敢に彼女を誘い出すべきであろう」

 と,大体このようなことを書いていた。

 何につけても社長はN2とチャコをくっつけようとしていた。

 自分の方がずっと可愛がられているにも拘らず。

 そう,社長は誰に対しても性的な側面から心理を解析するという性癖の持ち主であったのだ。

 社長の教授の服装に対する心理分析はその後も行われた。

 しかし,残念ながら先程のレポート以上のできのレポートは出来なかった。

 やはり,社長もどこかでチャコのことが好きだったのかもしれない。

日曜日, 5月 13, 2007

隣の芝生は青い

 「隣の芝生は青い」

 こんな諺がある。

 「隣の芝生は青い」

 他人を妬む人間の心理を表す諺だ。

 ということで,またもやリリーと隣の犬の話。

 今年の4月に引越しをした。

 以前は,近くに犬がいなかったのだが,今回は隣の家に犬がいる。

 ラブラドールである。

 しかし,この犬は実に可愛そうである。

 餌を満足に貰ってないのであろう。

 あばら骨は浮き出て,大型犬なのにうちのリリーのお尻よりも尻が小さい。

 顔だけがいやに大きい。

 体格は中型犬だ。

 ある日,彼はあまりにもお腹がすいたため,銀の餌皿を口に咥えてお座りをしていた。

 何時間も。

 哀れに思った妻と私は,飼い主のいないことを確認し,餌をあげた。

 何せ,ゴールデンウイークの真っ最中で,餌をもらえる確率は0に等しかったからである。

 一番安い,粒状の餌を上げた。

 貪るようにして食べている。

 いや,食べているというより,飲み込んでいる。

 あまりに急いで飲み込むものだから,時々吐いてしまう。

 それでも,吐いた物までしっかりと食べていた。

 食べ終わった後は,お礼のつもりなのか,お腹を見せて寝転がって尻尾を振っていた。

 お腹を撫ぜると目を細めて喜んでいた。

 他にも,彼の哀れな様子が窺える。

 繋がれている紐も,ワイヤーのような細い頑丈な紐で,首に食い込んでいる。

 「首輪」ではない。

 ただのワイヤーである。

 しかも,長さは2m位しかない。

 小屋は小型犬用の小屋で、ラブ(勝手に命名)が入ったなら顔が出てしまうくらい小さい。

 散歩にも連れて行ってもらえないのだろう。

小屋の周りには,糞が無数に転がっている。

下の世話もしてもらっていない。

だから,ラブの体はべたついていて,臭い。

 妻と私の間では,次の決まりを設けた。

1.飼い主に見つからない様に餌をあげる

2.そのうち,飼い主が長い間いない時を見計らって穴を掘り,糞を埋める

3.出来ればシャンプーもしてあげる

 こうして,我が家の隠れ家族が1匹増えた。

 リリーはと言うと,度々食物を持って家を出て行くのが気に入らないらしい。

 そして,帰って来た時には,他の犬の臭いがするのを不審がってる。

 散歩に行く時にいつもラブに会うのだが,いつも挑戦的な態度である。

 リリーにとってラブに置かれた状況が「隣の青い芝生」に見えるのだろう。

 食べたくない物は無視をし,いつでも水が飲める。

 人間が食す美味しい食物のおこぼれも頂戴できる。

狭いながらも,家の中は自由に歩ける。

 散歩も日に2回,定期的に連れて行って貰える。

 いつも誰かに構って貰える,彼女にとってそれはあまり嬉しくないことだろうけど。

 人間とは,いや動物とは勝手な者である。

 それでも,「隣の芝生は青い」のである。

 実際はラブがリリーの状況を「青い芝生」と感じているだろう。

 それが正しい「隣の芝生は青い」の使い方である。

木曜日, 4月 26, 2007

皮肉

   皮肉

 余りにも有名な話だが,ヘルマン=ヘッセは「詩人になりたい。さもなくば,死にたい」と生前言っていたらしい。

 オイラは「小説家になりたい。さもなくば,死にたい」と思っているから,きっと82歳までは生きるだろうwww。

 ところで,どうやって「皮肉」という言葉が生まれたのであろうか?

 「皮肉」とは「皮」と「肉」である。

 先ほどから使っている「皮肉」という言葉の意味は,「③遠まわしに意地わるく弱点などをつくこと。あてこすり」と広辞苑第2版には書いてある通りである。これは「②骨身にこたえるような鋭い非難」から転じたのだと思う。

 そう考えると,何となくではあるが,なんとなく分かる気がしないでもない。

 そこで次の言葉を考えてしまった。

 「親切」である。

 「親」を「切る」と書いて「親切」。

 何だ,これは。

 親を切ると優しいことになるのか?

 いや,待てよ。

 「親しい(ちかしい)」人が悲しむと「切なくなる」からではないか?

 何となくそう感じてきたぞ。

 うん。

 きっとそうだ。

 待てよ,また思い浮かんでしまった。

 「割愛」とはどこから出来きてきたのだ?

 「愛」を「割る」と省略することになるのか?

 これは参った。

 本当に分からない。

 誰か,説明してくれ。

土曜日, 3月 24, 2007

言葉考

 「言葉考」

 後につづける言葉が違うと,意味がまったく違ったものになる言葉がある。

 例えば,『罪深い』だ。

 「私は罪深い人間です」と書いたら,ああ,この人は心に何か悔やまれることがあるんだろうなと思ってしまう。

 「私は罪深い女よ」とくれば,ほうほう,この女の人は相当男を泣かせたなと思う。

 「罪深い子供」ときたら,何かこの子供にはドロドロした猟奇的なものを感じてしまう。

 だから何だと言われても,何も言えないが,言葉って面白いと思ってしまう。

 言葉を研ぎ澄ますことに,今一番関心がある。

 もっと適切な言葉は? もっと言葉を削って,などと考えると自然と俳句に辿り着く。

 五七五の中に季節を入れ,作者の心情を語る。

 むずかしい。

 芭蕉を超える俳句はもう無いかもしれない。

 そんな領域に達した芭蕉は晩年に何を感じたのだろう?

 言葉の虚しさだろうか?

 もっと言葉を語りたかったのだろうか?

 私は現存する作家の中で最も好きなのは村上春樹である。

 その村上春樹が15年程前に書いた本がある。

 共著は糸井重里である。

 確か題名は『夢で会いましょう』だったと思う。

 その中で,糸井重里の書いた文の中にこんな件があった。

 「仮面という言葉をお面という言葉に変えたら面白い」

 「道化師という言葉の代わりにおかしな人と言ったら面白い」

 というようなことである。

 流石,日本を代表するコピーライターである。

 言葉の本質,言葉の違いを的確に表している。

 

 奥さんと別れて,ほかの有名女優と結婚した糸井がわからなかった。

 人道的に許すことが出来なかった。

 しかし,この本を読んで以来,私は糸井重里を見直すようになった。

 だからどうした,と言われても困るのだけれど。

木曜日, 3月 08, 2007

『オラの家族 Vol.15 ピコとオンタ』

 『オラの家族 Vol.15 ピコとオンタ』

 今回もピコとピコとオンタの続きである。
 ピコは雌で,オンタはオスだ。
 ピコの方を先に飼っていたので,ピコは年上女房だった。

 ピコは雛から育てたので人懐っこく,オンタは成鳥として飼ったので人の手には絶対に止まらなかった。
 そんな訳でオンタは家族からもオイラからもあまり可愛がられなかった。
 いや,殆ど可愛がられなかった。
 
 可愛がられなかった理由はもう一つあった。
 オンタは意地悪だったである。

 オンタはよくピコを苛めていた。
 嘴でピコを突っつくのである。
 可愛そうなピコはいつも頭髪を薄くしていた。
 女性だから尚更哀れである。
 まるで,尼さんの様だった。
 ピコは,別にどこかの宗教団体に属してるわけではなかったが。
 オイラは,オンタがピコを突っつく度に籠の中に手を入れ,オンタを追い掛け回し,捕まえては叱っていた。
 でも,オンタは自分を省みることなく,ピコを突っついていた。
 正真正銘の鳥頭だから仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。
 でもやはり,毛の薄くなったピコの頭部を見る度に,ピコが哀れで仕方なかった。

 そんな番であったが,やはり,夫婦としてやることはやっていた。
 まあ,例えるなら,DV(ドメスティック・バイオレンス)の夫婦と言ったところだろうか。
 自分が気に入らないときは,暴力を振るうが,夜になるとちゃっかりやっているヒモの様な男がオンタなのだろう。
 
 そんな対照的であったピコとオンタだが,両方とも共通することがあった。
 もしかしたら文鳥全部に通じるのかもしれないが。
 それは,水浴びである。
 毎朝,オイラは鳥の世話をしていた。
 餌を取替え,籠の床の掃除をし,水を取り替えていた。
 水を取り替えるとすぐに二人とも水浴びをしていた。
 しかし,ここにも男尊女卑があった。
 先に水浴びをするのは,必ずオンタだったのである。

 本当にピコは年上女房として,DVされるにもにも水浴びをするにも食事をする時でも,耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでいた。

 そんなピコもオイラが小学校高学年の時,死んでしまった。
 安らかな眠りに就いたような死だった。
 そして,1年も経たないうちにオンタも後を追うようにして死んでいった。
 虹の橋の袂では,今もオンタが先に水浴びをして,ピコはじっと待っていると思う。

水曜日, 2月 14, 2007

『オラの家族 Vol.14 ピコ2』

 『オラの家族 Vol.14 ピコ2』

 前にも言ったが,ピコ2(『ピコピコ』ではなく『ピコツー』と呼ぶ)は桜文鳥だ。
 雛の頃から世話をした甲斐があって,人によく懐いた。
 彼女は頭が良く,自分で籠の戸を開いて外に出ることがあった。
 籠の戸は,下から上に持ち上げて開くシステムになっていたから,鳥が持ち上げるにはかなりのエネルギーを要したと思う。

 彼女は一人ぼっちで,籠に入れられ寂しかったのだと思う。
 籠から出してやると,人の周りをよく飛んでいた。
 肩にも止まり,円らな瞳でこちらを見ていた。

 その当時,オイラ一家はあるビル(と言うには大袈裟か)の管理人室に住んでいた。
 親父の職場の建物であった。
 ピコ2の籠は,玄関の入り口に置かれていた。

ある日,籠の中に彼女の姿は無かった。
オイラが学校から帰って来た時,彼女は突如としていなくなってしまっていた。
家の中を隅々まで探し回った。
しかし,どこにも彼女の姿は無かった。

彼女自身か或いは誰かが彼女を籠から出したのだと思う。
不特定ではないものの,多数の人が出入りする場所だったのだから。

数日間,中には誰もいない籠が玄関に置かれた。

彼女の思い出は,あまりに少なかった。

どこかで彼女は飛び回っているだろう。

虹の橋で飛び回っている彼女の姿を見かけたら可愛がってあげて欲しい。

土曜日, 2月 10, 2007

『オラの家族 Vol.13 ユカ』

 『オラの家族 Vol.13 ユカ』

 もう1回娘の話だ。

 もう10年位前のことであろうか。
 娘も3歳くらいで可愛い盛りだった。
 夏季休暇に家族旅行に出掛けた。
 と言っても道北から道東への短い小さな旅行だ。
 1日目は、オイラが以前住んでいた日高のS町へ向かった。
 予約していた温泉で、温泉に浸かり夕食を食べた。
 娘にはお子様ランチを用意した。
 ユカは喜んで小さな手を叩いていた。
 オイラと嫁は満足だった。

 次の日、十勝のO市のテーマパークに行った。
 そこでもユカは喜んで遊んでいた。
 でも、一人っ子の所為で遊ぶ相手はオイラと嫁しかいなかった。
 ユカは様々なアトラクションにはあまり興味を示さなかった。
 それはそうであろう。
 まだ、3歳なのだから。
 ユカは砂や土いじりが大好きな子供だった。
 テーマパークでも土をいじって遊んでいた。
 彼女は彼女なりに楽しんでいたのだと思う。

 この日の夜、嫁の友達の家に行った。
 その家族も5歳と3歳の女の子がいた。
 オイラと嫁は、きっと仲良く遊んでくれると楽しみにしていた。
 
 その子達は悪くない。
 幼い子供であるから仕方ない。
 それは分かっていたのだが・・・

 嫁の友達が子供用のパソコンを出してくれた。
 娘は初めて見るものに興味を示していた。
 最初はその姉妹が遊んでいた。
 ユカは眺めていた。
 そして、ユカが遊べる番になった。
 ユカは使い方が分からないながらも遊ぼうとする。
 すると、その姉妹はユカから離れ、オイラの所へ来て別の遊びをしようと言い出した。

 なぜかその姉妹にオイラは人気があった。
 オイラも嫁の友達の手前である以上、遊んでいた。
 その間、ユカは一人パソコンで遊んでいた。
 嫁の友達が「一緒に遊びなさい。遊び方を教えてあげなさい」と言ってもオイラの傍から離れることは無かった。
 ユカの傍による事は無かった。
 無邪気に、何も知らずに遊ぶ娘の姿に心がちくりとした。

 次の日、みんなで動物園に行く事にした。
 車を降りて、みんなで歩いた。
 姉妹は、はしゃいで走り回った。
 その後ろを一生懸命に追いかけるユカ。
 姉妹が立ち止まって、地面を見た。
 娘も一緒に見ようとした。
 ユカが近づいた途端、姉妹はユカを置いて走り去った。
 また、姉妹を追いかける娘。

 そんなことがずっと続いた。
 オイラは予感していたが、認めたくはなかった。
 「ユカはこの姉妹に嫌われている」という事実を。
 動物に餌をあげるのも、乗り物に乗るのも姉妹は一緒。
 ユカは別。

 ユカは何も知らずに土いじりをしていた。
 何も知らず。
 何が起こっているのか気付かずに。
 オイラの心はちくちくとした。

 そんな旅行から帰ってきて、娘は熱を出した。
 娘も頭では分からないながらも何かを感じていたのだろうか。
 その姉妹は、娘をいじめたわけではない。
 その子達を責めることはできない。
 でも、今でもオイラと嫁の心から、この出来事を消すことができない。
 せめて、ユカは何も覚えていないことを願うばかりだ。

 そんな娘も、今年は中学に入学する。
 友達を沢山作ってくれたら、何も望まない。
 天よ、善き配剤を。

日曜日, 1月 28, 2007

『オラの家族 Vol.12 アニキ』

 『オラの家族 Vol.12 アニキ』

 今回はアニキの話である。
 勿論,オイラは『薔薇族』でも『サブ』の愛読家でもない。
 そういう意味でのアニキではない。
 血の繋がった,れっきとしたアニキである。

 数年前,アニキは道路交通法違反で検挙された。
 速度超過である。
 オービスに引っ掛かったのである。

 アホである。
 何故なら,オービスのあった道路は通勤に使う道路だったのである。
 いつも行き来していたのである。
 場所も知っていたのである。

 それにも拘らず,アニキは赤い光を浴びた。
 全くのドアホである。
 ただ,速度超過をしただけならば,そうアホでもない。

 このアホ,とんでもないことをしでかした。
 このアホのしたことは・・・
 警察に手紙をしたためたのである。
 「オービスに写っているのは,私ではありません」と言い訳を文書で送ったのである。

 数日後,アニキのいないアニキの家に屈強なポリスメンがいらっしゃった。
 所謂,『デカ』である。
 2人組みである。
 ご丁寧にオービスの写真も見せてくださった。
 事情を知らない義姉は,写っている写真を見て,「アニキです」と証言した。
 アニキは義姉に何も言っていなかったのである。
 義姉は何も考えずに証言してしまったのである。

 アホ家族である。
 アニキはドアホである。
 義姉もアホである。

 警察権力に何回も立ち向かったことのあるオイラから見れば,素人の『ゴト』である。

 ※ 『ゴト』とは,裏仕事のことである。

 もっとうまくやらんかい。
 きちっと絵を描かんかい(カバチタレ風)。
 このドアホが!!!

 その後,アニキは10数万円の罰金を払い,2ヶ月の免許停止をくらった。

 イニ,この話は役に立ったか?

木曜日, 1月 11, 2007

『オラの家族 Vol.11 ピコとピコとオンタ 1』

 『オラの家族 Vol.11 ピコとピコとオンタ 1』

 初めに断っておく。
 題名は間違っていない。
 『ピコとピコとオンタ』である。
 『ピコ』を2回繰り返しているには,訳がある。
 オイラが小学校に上がった時,2羽の文鳥を飼った。
 文鳥の名前は,どちらもピコだった。
 名付け親はオイラである。
 センスが全く無い。
 自分でも呆れている。
 なぜ,両方ともピコにしたのか,理由を全然思い出せない。

 兎に角,オイラの家に2羽の文鳥の雛がやってきた。
 ピコ1は,白文鳥で,ピコ2は桜文鳥であった。
 なぜ,毛色の違う鳥を飼ったのか。
 訳は,オイラの親父に聞いてほしい。
 兎に角,オイラの希望ではなかったはずだ。
 きっと親父なりに,白と桜が交配するとどうなるかを知りたかったのだと思う。

 ピコ1もピコ2も餌を充分に与えられ,すくすくと育っていった。
 そして,成鳥になった。
 ところが,卵を産まない。
 待てど暮らせど卵を産まない。
 痺れを切らした親父は百科事典で調べた。
 その結果は,どちらともメスだったのである。

 卵を産むわけが無いのである。
 そこで,雛を繁殖させたいという欲望から,親父はオスの成鳥の白文鳥を買ってきた。
 じゃあ,何のために最初にピコ2という桜文鳥を飼ったのだろうか。
 白と桜の交配を確かめたかったのではないのか。
 不思議である。
 訳は,親父に聞いてほしい。
 
 この白文鳥は『オンタ』と名付けられた。
 本当のことを言うと名付けられたのではない。
 いつの間にか定着していたのである。
 オイラは,『ピコ』という名前以外は思いつかなかったのである。
 だからと言ってまた『ピコ』にすると,ピコが3羽になりややこしい。
 だから,後で買ってきた文鳥の方はオスだから『オンタ』と呼んだ。
 母が,「可愛そうだからちゃんとした名前を付けてあげなさい」と言ったが,オイラはめんどくさかったので,『オンタ』と呼び続けた。
 それが,いつの間にか定着した。
 実に,いい加減である。
 
 男のあなたは思うかもしれない。
 オスが1羽にメスは2羽。
 オンタがうらやましいと。
 
 そんなにうらやましく思わなくて結構である。
 何故なら,桜文鳥であるピコ2は別の籠で飼われたからである。
 オンタは,ピコ1と一緒に暮らした。
 厳格なオイラの家庭では,一夫一婦制が敷かれていたのである。

月曜日, 1月 01, 2007

ルシファー

   ルシファー

 彼の望みは、全てだった。
 完全なる全てだった。
 自分の力を果てしなく求めた。
 完全な自分でありたかった。

 彼は白い翼を折った。
 頭部に角を付けた。
 尻尾も付けた。
 それは、天使から悪魔への変容だった。

 彼が去るのを神は許さなかった。
 しかし、神は何も言わなかった。
 神は、彼を消滅することだけを考えた。
 いかに手際よく。

 やがて、神は人間を造った。
 人間は神に従った。
 神は人間をエデンに住ませた。
 神は、一つ、ルシファーへの攻撃の武器を手に入れた。

 何故だ?
 何故に、人間は知恵の実を食べたのだ?
 神は信じられなかった。
 自分の造った物は完全だと考えていた。

 これが神の誤りだった。
 完全な誤りだった。
 神は後悔した。
 それも、激しく。

 ルシファーは、一つ、武器を手に入れた。
 それは、人間だった。
 人間は彼の囁きに耳を傾けた。
 人間は、ルシファーの道具になった。

 神は怒り、ルシファーは、ほくそ笑んだ。
 人間はよく働いた。
 ルシファーを崇拝した。
 そして、彼はいつからか、サタンと名乗るようになった。

 しかし、人間はまたもや変貌した。
 神に仕える者と悪魔を崇拝する者に二分した。
 善い者と悪しき者に別れた。
 そして、神と悪魔の戦いは人間が代理するようになった。

 サタンは完全な自分になることを確信した。
 人間はよく働いた。
 彼の計算に間違いは無かった。
 人間はやがて神を殺した。

 サタンは角を取った。
 尻尾も取った。
 白い翼を背中に付けた。
 彼は美しくなった。

 白く輝くルシファー。
 彼はもう何も望まない。
 彼は完全になった。
 彼は満足して、消滅した。

 人間だけが残った。
 神は死んだ。
 悪魔は消滅した。
 今、カオスが渦を巻いている。