『社長 vol.1』
彼の名は『社長』。
本名はとてもじゃないが言えない。
社長と俺は同じゼミの出身だ。
俺が社長を初めて見たのは,入学式だった。
第1印象は,「誰の親だ?」
社長は,入学式の新入生(大学も新入生でいいのか?)の席の辺りで,右手で髪をつまみながら辺りを見渡していた。
俺はてっきり,新入生の親が間違えて学生の席に来てしまったのだと思っていた。
そうではないことを,後に社長自らの言葉で聞く事になる。
まあ,これはどうでもいいことだ。
新入早々,彼はゼミの先輩から『社長』という,ありがたいような,ありがたくないような渾名をもらうことなり,それから俺たち以外の人は社長の本名を忘れていった。
そう,彼は4年間,先輩からも後輩からも,男からも女からも,『社長』以外で呼ばれることはなかった。
俺たちを除いて。
彼はデブだ(事実)。
彼は油っぽい(髪の毛がいつもべたついている。入浴直後も。事実)。
彼は胸にいつも,点々とソースやケチャップの汁を付けている(腹が出っ張ってるからどうしても付いてしまう。事実)。
彼は眼鏡を掛けている(事実)。
彼は方形だ(事実)。
彼はロリコンだ(後に知った)。
彼の父親はDQNだ(彼に聞いた)。
彼は東京の足立区出身だ(彼に聞いた)。
彼はある一流大学の付属高校出身だ(しかしその高校は,ぜんぜん有名でない。事実)。
彼は妙に政治に詳しい(話し出したら30分は止まらない。事実)。
彼は1度,クイズ番組に出て,ハワイ旅行をしたことがある(彼によれば)。
要するに秋葉原を歩けば,間違いなくロリコンのオタクである。
こんな愛すべき奴と俺は,12年間付き合うこととなった。
人生は素晴らしい。
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