『虹の橋の袂に』
野良犬がいた。
スピッツのように白いふわふわの毛をしていた。
オイラは,そいつと仲良しだった。
人間の友達がいなかったオイラの唯一の親友だった。
オイラの行く先には必ずそいつは付いてきた。
遊ぶのも,おやつを食うのも一緒だった。
学校の授業以外は,いつもオイラとそいつは一緒だった。
ずっと一緒にいようと思っていた。
ずっと一緒にいられるはずだった。
ある時,野犬狩りが来た。
野良犬たちは次々と捕獲されていった。
当然そいつも狙われた。
オイラは,野犬狩りが来るたび,そいつを遠くへ追いやった。
そいつもオイラの考えを知っていて,野犬狩りが来た時にはオイラのそばへ寄ってこなかった。
そして,そいつは賢かった。
毒入りの餌には見向きもしなかった。
猟銃で狙われると,一目散に遠くへ逃げていった。
一度たりとも捕まることは無かった。
野犬狩りのおっさん達は毎度毎度逃げられていて,オイラとそいつを苦々しく思っていた。
ある日,野犬狩りのおっさんが俺に悪魔の取引を申し込んできた。
あの犬を捕まえてきたら100円やると言った。
貧乏なオイラにとって,100円は大金だった。
次の日,オイラはそいつの首をロープで縛り,市役所の支所に行った。
オイラは悪魔の囁きに耳を傾けてしまったのだ。
そいつは,死に赴く者特有の全てを観念した目をしていた。
自分が売られていくことを知っていたのだろう。
しかし,そいつはオイラを恨む目をしていなかった。
ただただ悲しそうな目だった。
そいつを野犬狩りに渡す時,2枚のかまぼこを食べさせてやった。
そいつの最後の食事を食べる姿は悲しげだった。
オイラの心はチクリとした。
今,そいつは虹の橋の袂で他の動物達と遊んでいるのだろうか。
虹の橋の袂で,オイラを待っていてくれてるのだろうか。
もし,そいつが虹の橋の袂にいるなら,オイラを待っていてくれるのなら,オイラを許してくれるなら,今度こそオイラは何を投げ出しても,いつまでもそいつと一緒にいようと思う。
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