土曜日, 11月 18, 2006

オラの家族 番外編

『虹の橋の袂に』

 野良犬がいた。
 スピッツのように白いふわふわの毛をしていた。
 オイラは,そいつと仲良しだった。
 人間の友達がいなかったオイラの唯一の親友だった。
 オイラの行く先には必ずそいつは付いてきた。
 遊ぶのも,おやつを食うのも一緒だった。
 学校の授業以外は,いつもオイラとそいつは一緒だった。
 ずっと一緒にいようと思っていた。
 ずっと一緒にいられるはずだった。

 ある時,野犬狩りが来た。
 野良犬たちは次々と捕獲されていった。
 当然そいつも狙われた。
 オイラは,野犬狩りが来るたび,そいつを遠くへ追いやった。
 そいつもオイラの考えを知っていて,野犬狩りが来た時にはオイラのそばへ寄ってこなかった。
 そして,そいつは賢かった。
 毒入りの餌には見向きもしなかった。
 猟銃で狙われると,一目散に遠くへ逃げていった。
 一度たりとも捕まることは無かった。
 野犬狩りのおっさん達は毎度毎度逃げられていて,オイラとそいつを苦々しく思っていた。

 ある日,野犬狩りのおっさんが俺に悪魔の取引を申し込んできた。
 あの犬を捕まえてきたら100円やると言った。
 貧乏なオイラにとって,100円は大金だった。

 次の日,オイラはそいつの首をロープで縛り,市役所の支所に行った。
 オイラは悪魔の囁きに耳を傾けてしまったのだ。
 そいつは,死に赴く者特有の全てを観念した目をしていた。
 自分が売られていくことを知っていたのだろう。
 しかし,そいつはオイラを恨む目をしていなかった。
 ただただ悲しそうな目だった。
 そいつを野犬狩りに渡す時,2枚のかまぼこを食べさせてやった。
 そいつの最後の食事を食べる姿は悲しげだった。
 オイラの心はチクリとした。

 今,そいつは虹の橋の袂で他の動物達と遊んでいるのだろうか。
 虹の橋の袂で,オイラを待っていてくれてるのだろうか。
 もし,そいつが虹の橋の袂にいるなら,オイラを待っていてくれるのなら,オイラを許してくれるなら,今度こそオイラは何を投げ出しても,いつまでもそいつと一緒にいようと思う。

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