『社長 vol.24』
社長は,その頃,太宰に傾倒していた。
容姿に似合うはずも無いが,紛れも無い事実であった。
大学2年目の時,彼は恋に落ちた。
笑ってはいけない。彼だって一応人間なのだから。
相手は新入生だった。
はっきり言って美人ではない。
そんなに可愛くも無い。
容姿の偏差値で言えば,45前後だろうか。
けれども性格がさっぱりしていて,かわいかった。
社長の彼女への思いは,夜汽車の中で綴った手紙で伝えられた。
社長は太宰になりきった。
自分という人間は生きている価値がない人間であり,そんな自分が哀れにも君に恋しると。
しかし,如何せんながら文は紆余曲折としており,読んですぐに恋文だとは分からない手紙であった。
貰った方としては,何が何だか良く分からない手紙である。
事実,彼女は同級生にその手紙を見せて,どういう意味なのか分からないとこぼしていた。
神聖な恋文を第三者に読まれてしまった社長。
しかし,神は社長を見捨ててなかった。
告白された本人が,告白されたとは気づかずに,社長に気さくに話し掛けていくのだから,しばらくの間は,失恋したことに社長は気づかなかったのである。
こうして,社長の大学での始めての恋は,いつの間にか終わっていた。
そして,社長はいつの間にか,風俗の帝王になっていた。
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