『たもちゃん vol.2』
たもちゃんはアルツハイマーになりつつある。
数日前,嫁が電話した。
「もしもし,じいちゃん? あたし誰だかわかる?」
「ああ,これはこれは山下さんの奥さん,いつもお世話になってます。」
「違うって! あたし誰だかわからないの?」
たもちゃんは実の娘の声を忘れたらしい。
「もしもし,じいちゃん? 体の具合どうなの?」
「ああ,たみこか?」
ようやく実の娘と認識したたもちゃん。
「体の具合どうなのよ?」
「まあ,ぼちぼちだな」
「ばあちゃんに甘えているのでないの?」
「ばあさんは,去年死んだだろ?」
「何言ってるの!去年死んだの山口のおばちゃんでしょ!」
「縁起でもないこと言わないでよ!」
「ああ,そうだったか?」
自分の嫁と姉を完全に間違えている。
「今日,天気どうだった?」
「電気はちゃんと通ってるぞ。停電もしてないぞ」
完全に話が合っていない。
「何で電気の事聞かないとだめなのさ? 天気のことだよ,て・ん・き!」
「ああ,雨が降ってなかったから,いい天気だったみたいだな」
「ちゃんと外見てないの? 雨が降ってなきゃ,いい天気に決まってるでしょ?」
嫁はイライラの頂点に達した。
「ちょっと。ばあちゃんに替わって!」
嫁はブチ切れ寸前だった。
こうして,嫁とたもちゃんとの会話は終わった。
実の娘の声が認識できなくなってるたもちゃん。
自分の嫁と姉を混同しているたもちゃん。
たもちゃんの前途は決して明るくない。
以後,嫁はたもちゃんのことを「じいちゃん」から「(アルツハイマーの)マーちゃん」と呼ぶようになった。
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