『社長 vol.34』
我々は,何か事がある度,ドライブに行くのが常であった。
この日は,同輩のO(♀)の20歳の誕生日であった。
我々は,Hの車に乗り,A町のI湖にやってきた。
特に綺麗な景色があるわけでもなし,ただ,いつものノリでやってきただけだった。
そして,我々はいつもの如く,写真を取りまくった。
これも特に意味は無い。
どこかへ行く度に行われる儀式のようなものだ。
Hは,駐車場のゴミ籠の中に入ってポーズを取る
20歳になった記念に,ピースサインで「2」を表し丸で「0」を表し,自分が20歳になったことを強調するO(美人)。
それぞれがそれぞれの決めのポーズを決めていった。
そして,社長は・・・
近くにあった,ドライブインの看板を引っこ抜いていた。
看板の高さは約3mといったところだろうか。
それだけではない。
「ゴミはゴミ箱に!」と書かれた注意の看板も引っこ抜く。
湖の名称が書き込まれた看板も引っこ抜く。
兎に角,ありとあらゆる看板を引っこ抜いては,看板を抱きかかえ,満面の笑みで写真に取られて,ご満悦だった。
勿論,後で看板を埋め直したのは,社長ではない。
俺達だ。
しかし,もっと重大な事が起こったのは帰路の事であった。
2台の車でドライブに行っていたのだが,無謀にも1台目の車は社長が運転することになった。
誰が言い出したか・・・
実は,俺だ。
社長が運転すると,どのくらい時間が掛かるのか知りたかっただけだ。
悪意は無い。
無かったはずだ・・・
そう,理科の学生が好む,「実験」というやつだ。
兎に角,社長が運転することとなった。
帰りは来た道を帰るのは,あまりに味気が無いということで,別の山道を帰ることにした。
車は少なく,社長の運転技術でも大丈夫だろうと判断の上であった。
しかしこれが誤算であった。
湖から出発して数分後,道路がアスファルトから砂利道に変化した。
正に,大きな誤算であった。
我々が乗った車(社長が運転する車)は,砂利道のカーブを切った時,砂利に車が流された。
必死にカウンターを当てる社長。
その努力も虚しく,車は雑草の生い茂る野原へ突っ込んでしまった。
我々の車脱出作戦は綿密に行われたが,その成果は芳しくなかった。
我々は,自力での脱出作戦を放棄した。
近くの農家にトラクターで牽引してもらうことがいいだろうという判断のもと,2台目の車が農家探索の旅に出た。
幸い1時間ほどで,救出作戦を行ってくれる農家がトラクターでやって来た。
運転を社長に任せてしまった俺は,激しく後悔の念に駆られていた。
しかし,その場で待っている間,社長は特に気にする様子も無い。
鼻歌交じりで辺りの草原の植物生態調査をしていた。
「おお,こんなところにセイタカアワダチソウが生えてますよ」
「帰化植物がこんな山奥に生えているなんて,珍しいですよ,先輩」
自分のドライブテクニックについて,悔恨する様子は微塵も見られない。
それが社長クオリティー。
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