『社長 vol.7』
社長が魔法のカードを手に入れたのは,2年目の春のことであった。
「先輩先輩,実は魔法のカードを手に入れたんですよ。いっひっひっひ」
「このカードはですね,10万分物を貰えたり,10万円お金を引き出せる優れものの魔法のカードなんですよ」
まあ,要するにショッピングが10万,キャッシングが10万できるクレジットカードのことである。
『SE○BU』の『SA○SONカード』である。
彼は,借りたものは返さなければならないという,民事の基本的事項を全く無視しているのである。
知ってはいるのである。
あえて,もう一度言うが,あえて無視しているのである。
そんな彼であるから,行く末は見えていた。
確か,後期の授業料の納期の頃だったと思う。
社長は,仕送りをしてもらった金を全て飲み食いやお風呂に費やした。
そこで登場なのが,魔法のカードである。
「N2先輩,2万円貸してくださいよ。その2万円をSE○BUに返すとまた,新たに10万円が
借りられるんですよ。いっひっひっひ。そうしたら,先輩には寿司を奢りますんで」
N2は言われるままに2万円を貸した。
当時の2万円は今の価値では,5万くらいになるだろうか?
そして,無人キャッシングの機械の前である。
「じゃ,借りた2万円をこうやって返してと・・・」
「するとですね,今までの借金がチャラになって,新たに10万円が借りられるんですよ」
「このボタンと暗証番号を押してと・・・」
「あれ,おかしいな。『貸し出しできません』と表示されてる・・・」
「もう一度やってみますね」
何遍やってもおんなじである。
借りられるわけ無いのである。
すでにキャッシングの限度までいってるのだから・・・
いまさら2万ぽっちで10万を新たに借りられるわけは無いのである。
しかし,魔法のカードと信じて疑わない社長は,何回もキャッシングのボタンと暗証番号のボタンを連打するのである。
哀れだ・・・
あまりにも哀れだ・・・
納得の行かない社長を連れて,寿司を奢ったのはN2であった。
そして,授業料の納期が目前に迫った社長は,ゼミの教授に頭を下げて授業料を借りたのだった。
教授への言い訳は,『親の生活が苦しくて仕送りしてもらえない』だった。
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