土曜日, 11月 18, 2006

社長 16

 『社長 vol.16』

 1985年4月,そんな社長も大学を卒業し,とある中学校へ赴任して行った。
 そう,彼は教師になったのである。
 こんな彼を採用したのは,北海道教育委員会である。
 おろかなお役所仕事である。
 面接で,彼の本質の一端でも見出すことはできなかったのであろうか?
 やはり,講釈垂れるのがうまい社長の方が一枚上手だったのだろう。
 面接官を責めるのは忍びない。

 彼は晴れてR町へ赴任して行った。
 R町は漁師町である。
 社長のずぼらな性格は,きっぷのいい男と勘違いされ,漁師の父ちゃんたちのハートをがっちりと掴んだらしく,PTAの飲み会では,甚くもてたらしい。
 「こっちの町では,PTAの飲み会でお金を払わないんですよ。いっひっひっひ。馬○な父ちゃんたちがみんな払ってくれるんですよ。いっひっひっひっひ。」
 電話の彼の口調はいつにも増して明るかった。
 それはそうである。
 彼は,「ただ」が大好きなのである。
 借金も「ただ」で貰ったお金と思い込んでいる男である。
 しかし,その何倍もの負債を背負い込むことになる破目になるとは,社長とて,思いつきだにしなかったのである。

 先ほども言ったようにR町は漁師町である。
 漁師はみんな,普通の船の他に「特攻船」を持っている。
 「特攻船」とは・・・違法に他国の領海内に入り,ささっと密漁をしては,疾風の如く逃げ出せる突拍子もないスピードを持った船のことである。
 そんな父親を持った子供たちを相手に教師を行う社長は哀れだ・・・
 そう,彼も他国のようにやられたのである。
 陸の上の「特攻船」に・・・
 
 ある日,彼は部活の関係で生徒たちを車に乗せた。
 そして,エンジンを掛けたまま書類を取りに学校内に戻った。
 その時,DQNな親を持つDQNな生徒が車を動かし,そのまま学校に特攻してしまった。
 社長のHONDAシビックは大破した。
 社長は一瞬にして600000円を失った。
 数回の飲み会代が600000円掛かったのも同様になってしまった。

 数日後,社長は新たに借金をしてまた,中古のHONDAシビックを買った。
 PTAの飲み会はその後も「ただ」だったらしい・・・

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