土曜日, 11月 18, 2006

社長 37

 『社長 vol.37』

 『下手の横好き』という言葉があるが,社長の場合は『下手の飛ばしすぎ』だった。
 社長のドライブテクニックは最低だった。
 しかし,社長は飛ばして運転していた。
 まあ,これもススキノでお買い物をするために得た技能なのだろう。
 まさに『好きこそものの上手なれ』である。
 ちょっと違うか。
 そんな社長であるが,免許を取り立ての頃は,トロトロ運転だった。
 
 大学3年目の秋のことである。
 社長が免許を取得したので,みんなでお祝いにドライブに出掛けた。
 勿論,ドライバーは社長である。
 命を賭けたお祝いなのである。
 
 Kは,この日のために秘策を練っていた。
 Kは,どこからか『運転技術は卵を車の中に吊るせば分かる』ということを仕入れてきていたのである。
 Kは,この命懸けのドライブのため,卵をポケットに忍ばせた。
 そして,半ば強引に助手席に乗り込んだ。
 そう,ドライブの最中に卵をフロントガラスの上に吊るしたのである。

 最初の20分は,快適なドライブであった。
 そして事が起きたのは,E峠に差し掛かった時だった。
 E峠は,細く狭い曲がりくねった道路で有名だった。
 以前に2回死亡事故があった事故の名所でもある。
 行き先を選んだのは,言うまでも無く社長である。
 我々は,腋の下に嫌な汗を感じた。

 急カーブに差し掛かった時である。
 吊るしていた卵が大きく揺れて,フロントガラスに激しくぶつかった。
 卵が割れた。
 フロントガラスと運転席は,卵にまみれた。
 しかし,ここは峠。
 しかも狭い道である。
 当然,車を止めることは事故に繋がる。
 このまま運転することも事故に繋がりかねない。
 
 その究極の選択の時,社長の発した言葉がこうだった。
 「卵の白身がズボンについて,まるでザーメンのようですよ。いっひっひっひ」
 命よりも性的な事を優先させる,まさに社長らしい社長であった。

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