土曜日, 11月 18, 2006

オラの家族 5

 『オラの家族 Vol.5 リン』

 リンちゃんは,金魚である。
 オスかメスかは分からない。
 自分の名前も認識していたかどうか分からない。
 しかし,家族の中でオイラの言うことを一番聞くのは,リンちゃんであった。
 しかし,2年程前に他界してしまった。
 惜しい人ほど早くいなくなる。
 リンちゃんも例外ではなかったようだ。

 リンちゃんは,お祭の夜店で掬った由緒正しい金魚だ。
 正確に言うと,掬ったのではなく,『掬えなかったからおまけに貰えた』金魚である。
 屋台の金魚にも拘らず,5年ほど生きたのだから,長寿の部類に入ると思う。
 
 リンちゃんは,食事になるとオイラの近くに寄って来た。
 そして,口をパクパクと開け,餌をおねだりするのだ。
 また,姿勢も大変素晴らしく,水面に対し,ほぼ垂直である。
 直立不動である。
 口はパクパクしているが。
 そんな仕草が可愛くて,30分程餌をやらずに,眺めていたことがあった。
 リンちゃんは文句も言わず,30分もパクパク,パクパクとしていた。
 愛らしい金魚である。
 健気である。

 金魚鉢を指でトントンと叩くと,必ず寄って来た。
 名前を呼ばれても近寄って来ようともしないリリーとは雲泥の差である。
 「リン」と呼び掛けても返事は返ってこなかったが,口がきけるのならきっと返事をしてきただろうと思う。
 
 そんな,リンちゃんであったが,最期はあっけないものだった。
 出掛けるとき,リリーは連れて行けるが,リンちゃんはそうも行かない。
 まさか金魚鉢を車に乗せるわけにはいかない。
 したがって,リンちゃんは必ず,留守番であった。
 勿論,留守の間に電話に出るとか,泥棒が入らないようにするとか,そういう実務は全然できない。
 勿論,家族の誰一人としてリンちゃんに実務を期待する者はいない。

 北海道の冬は寒さが厳しい。
 家を留守にすると,帰ってきた時,暖まるのに1日はかかる。
 そこで,なるべく寒くならないよう,トイレに電気ストーブを置き,リンちゃんもそこに置いておくことが当たり前になっていた。
 電気ストーブは小型の物で,サーモスイッチが付いている物である。
 ある,冬の日,オイラたちは実家に出かけた。
 いつものようにトイレにリンちゃんを置いた。
 しかし,帰ってくると,トイレの中は異様に暑く,リンちゃんはお腹を見せて浮かんでいた。
 そう,ストーブのサーモスイッチが壊れていて,ずっと暖房されていたのである。
 リンちゃんは,ストーブによって殺されたのである。
 さぞ,無念だったに違いない。
 毎年,リンちゃんの命日には,墓の前でその電気ストーブを叱ってやっている。
 きっと,リンちゃんも天国で喜んでいることと思う。

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