『社長 vol.19』
社長のパパはDQNだった。
北海道のO市生まれで,社長の母さんに惚れて,東京まで追っかけて行き,娶ったのはいいが,その後,小チンピラとなりシャブにも手を出した前歴がある。
その頃は,羽振りも良く,その頃では高級車であるセドリックに乗っていた。
「セドリックに乗っているとホテルに食事に行っても恥ずかしくないんですよ。いっひっひっひ」と社長は俺たちによく語っていた。
社長パパは,社長の母親の死後,社長たちを母親方の祖父母に預け,ふらりと姿をくらました。
そして,社長が某有名大学の付属高校に入学した頃,姿を現した。
その第一声目が,「『親は無くとも子は育つ』とはよく言ったもんだ。はっはっは」と高笑い交じりだったという。
さすがは社長パパである。
気風がいい,ではなく,ずぼらである。
そして,新しい母親を社長たちに紹介した。
そう,行方不明になっている間に,新しい女を作っていたのである。
社長パパは結構いい男なのである。
そこは社長と違っていた。
女にも,そこそこもてたらしい。
そこも社長と違っている。
なんてたって素人とは,縁の無い社長である。
ある日,社長パパが大学を訪れた。
自分の息子がどのような暮らしをしているのか,知りたくなったらしい。
大学の正門の中に車を乗り入れ,車を止めた。
運の悪いことに,学生がその近くでキャッチボールをしていた。
更に運の悪いことに,受け損なったボールが社長パパの車のボディにぶつかった。
社長パパは見た目がいかつい。
当たり前である。
つい最近まで小チンピラだったのだから。
社長パパは,車から降りてこう言った。
「おいそこの学生!!! ちょっと来い!!!」
「す,す,すいません・・・」
「電話はどこにある?」
学生を呼んだのは,ただ電話を掛けたかっただけであった。
社長パパは,見た目がいかつくても悪い人ではなかった。
0 件のコメント:
コメントを投稿