『社長 vol.27』
社長が本気で怒ったのを見たことが一度だけあった。
社長が下宿から寮に引越しをしたときである。
社長にいいように使われていたN2は,当たり前のように引越しに使われた。
その時,俺とNは,Nのアパートでまったりと過ごしていた。
昼頃になって,社長とN2はNのアパートにやってきた。
「いやあ,N2君のお陰で,引越しが無事に終わりましたよ」
「N2君は良く働いてくれましたよ」
よくよく話を聞くと,荷物をリヤカーに運んだのは,殆どN2。
リヤカーを引っ張ったのもN2。
荷卸をしたのも殆どN2。
社長は殆ど何もしなかったようである。
「じゃ,N2君には引っ越し蕎麦ということで,蕎麦でも食いに行きますか?」
社長の提案で,我々4人は蕎麦を食いに行った。
「N2君は,手伝ってもらったのでここは私が奢りますよ。いっひっひっひ」
「でも一緒に来たんだから,俺達も奢ってもらえるよな」
と,俺とN。
「まさか。何もしてくれなかった君達には奢りませんよ」
ふくれっ面をする社長。
もともと丸い顔が,さらに丸くなる。
「まさか,Sのことだから奢るよな」
と,しつこく食い下がるおれとN。
「冗談じゃないですよ。奢るのはN2君だけですよ」
そこでN2が言った。
「じゃ,俺が3人前頼めばいいんだよな。そして,OとNに食い切れないからと言って,やればいいんだよな」
そうだそうだと言い張る俺達3人。
社長は不機嫌になった。
注文の品が届いて,普通に会話をしながら蕎麦を食った。
そして,いよいよ支払いのときである。
「S,ご馳走さん」
にこやかに社長に話しかける俺達。
ぶすっとして「何で私がO君やN君に奢らなきゃいけないんですか」
とぶつぶつ言う社長。
なんだかんだでその場は社長が全額支払った。
そして,その時が遂にやってきた。
店から出たNと俺は社長に「さっきのは,冗談だよ。はい。俺達の分」
俺とNは,500円札を社長に渡した。
途端に社長は,札をびりびりと破いて撒き散らした。
ふくれっ面をしながら。
その時の社長は丸い顔をした阿修羅であった。
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