土曜日, 11月 18, 2006

社長 27

 『社長 vol.27』

 社長が本気で怒ったのを見たことが一度だけあった。

 社長が下宿から寮に引越しをしたときである。
 社長にいいように使われていたN2は,当たり前のように引越しに使われた。
 その時,俺とNは,Nのアパートでまったりと過ごしていた。
 
 昼頃になって,社長とN2はNのアパートにやってきた。
 「いやあ,N2君のお陰で,引越しが無事に終わりましたよ」
 「N2君は良く働いてくれましたよ」
 よくよく話を聞くと,荷物をリヤカーに運んだのは,殆どN2。
 リヤカーを引っ張ったのもN2。
 荷卸をしたのも殆どN2。
 社長は殆ど何もしなかったようである。

 「じゃ,N2君には引っ越し蕎麦ということで,蕎麦でも食いに行きますか?」
 社長の提案で,我々4人は蕎麦を食いに行った。
 「N2君は,手伝ってもらったのでここは私が奢りますよ。いっひっひっひ」
 「でも一緒に来たんだから,俺達も奢ってもらえるよな」
 と,俺とN。
 「まさか。何もしてくれなかった君達には奢りませんよ」
 ふくれっ面をする社長。
 もともと丸い顔が,さらに丸くなる。
 「まさか,Sのことだから奢るよな」
 と,しつこく食い下がるおれとN。
 「冗談じゃないですよ。奢るのはN2君だけですよ」

 そこでN2が言った。
 「じゃ,俺が3人前頼めばいいんだよな。そして,OとNに食い切れないからと言って,やればいいんだよな」
 そうだそうだと言い張る俺達3人。
 社長は不機嫌になった。
 注文の品が届いて,普通に会話をしながら蕎麦を食った。
 そして,いよいよ支払いのときである。

 「S,ご馳走さん」
 にこやかに社長に話しかける俺達。
 ぶすっとして「何で私がO君やN君に奢らなきゃいけないんですか」
 とぶつぶつ言う社長。
 なんだかんだでその場は社長が全額支払った。

 そして,その時が遂にやってきた。
 店から出たNと俺は社長に「さっきのは,冗談だよ。はい。俺達の分」
 俺とNは,500円札を社長に渡した。
 途端に社長は,札をびりびりと破いて撒き散らした。
 ふくれっ面をしながら。
 その時の社長は丸い顔をした阿修羅であった。

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