『社長 vol.4』
社長はあまり酒が好きではなかった。
酒よりもコーラが大好きだった。
でもコンパでは,誰よりも飲んだ。
彼の得意技は,『カポ』である。
『カポ』というのは,一気飲みのことである。
ごくごくと飲むのではない。
一気に,本当に一気に胃に流し込むのである。
一瞬でコップが空になる。
だから,毎年の学園祭での早飲み競争では,圧倒的強さでチャンピオンに輝いていた。
『カポ』を見るのは楽しかった。
そう,その日までは。
その日は,ゼミでのコンパが行われた。
学園祭の打ち上げである。
その日も社長は酒を飲むというより,流し込んでいた。
酒に飲まれていた。
彼がすっかり出来上がった時,彼を連れて帰るのは俺の必然の義務になっていた。
俺だって好き好んで,100kgの荷物を運びたくない。
俺が100kgの脂肪を肩に掛け,タクシー乗り場まで運び,狭いタクシーに無理やり詰め込み,タクシーの中では吐かないように気を配り,寮に着いた時には小さなタクシーから100kgの肉体を取り出し,約100mもあろうかと思われる長い寮への道を100kgの肉を担ぎ,寮の二階へ100kgの煩悩を担ぎ上げ,狭く,とてつもなく汚い部屋に転がり込んだのは,午前2時を過ぎていた。
部屋の床に散らばる臭い靴下や,エロ本をどけ,新聞紙をくまなく敷き詰めた。
そして,ゴミ箱に新聞紙を入れ社長を諭した。
「おい,S。吐きそうになったら枕元にゴミ箱があるからな。そこに吐けよ。一応床にも新聞紙敷いたからな」
「先輩,すみませんね」
と言った直後である。
彼は,床に敷き詰めた新聞紙をわざわざどけて,グリーンの絨毯に色とりどりの雪を巻き散らかした。
彼からの素敵なクリスマスプレゼントである。
俺は,そのプレゼントを靴下に詰めてやろうかと思ったが,流石に止めた。
次の日,大学の講義を休んだけど,キリスト様ならきっと寛容の心で許してくれたはずだ。
当然,社長は2日後に会った時には,そんなことは微塵も覚えていなかったのは言うまでもない。
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