土曜日, 11月 18, 2006

社長 4

 『社長 vol.4』

 社長はあまり酒が好きではなかった。
 酒よりもコーラが大好きだった。
 でもコンパでは,誰よりも飲んだ。
 彼の得意技は,『カポ』である。
 『カポ』というのは,一気飲みのことである。
 ごくごくと飲むのではない。
 一気に,本当に一気に胃に流し込むのである。
 一瞬でコップが空になる。
 だから,毎年の学園祭での早飲み競争では,圧倒的強さでチャンピオンに輝いていた。

 『カポ』を見るのは楽しかった。
 そう,その日までは。

 その日は,ゼミでのコンパが行われた。
 学園祭の打ち上げである。
 その日も社長は酒を飲むというより,流し込んでいた。
 酒に飲まれていた。

 彼がすっかり出来上がった時,彼を連れて帰るのは俺の必然の義務になっていた。
 俺だって好き好んで,100kgの荷物を運びたくない。

 俺が100kgの脂肪を肩に掛け,タクシー乗り場まで運び,狭いタクシーに無理やり詰め込み,タクシーの中では吐かないように気を配り,寮に着いた時には小さなタクシーから100kgの肉体を取り出し,約100mもあろうかと思われる長い寮への道を100kgの肉を担ぎ,寮の二階へ100kgの煩悩を担ぎ上げ,狭く,とてつもなく汚い部屋に転がり込んだのは,午前2時を過ぎていた。

 部屋の床に散らばる臭い靴下や,エロ本をどけ,新聞紙をくまなく敷き詰めた。
 そして,ゴミ箱に新聞紙を入れ社長を諭した。
 「おい,S。吐きそうになったら枕元にゴミ箱があるからな。そこに吐けよ。一応床にも新聞紙敷いたからな」
 「先輩,すみませんね」
 と言った直後である。
 彼は,床に敷き詰めた新聞紙をわざわざどけて,グリーンの絨毯に色とりどりの雪を巻き散らかした。
 彼からの素敵なクリスマスプレゼントである。
 俺は,そのプレゼントを靴下に詰めてやろうかと思ったが,流石に止めた。

 次の日,大学の講義を休んだけど,キリスト様ならきっと寛容の心で許してくれたはずだ。
 当然,社長は2日後に会った時には,そんなことは微塵も覚えていなかったのは言うまでもない。

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