土曜日, 11月 18, 2006

社長 33

 『社長 vol.33』

 北海道の秋は短い。
 10月も中旬に入ると,山は眠る。
 厳しい冬の始まりである。
 賑やかな山々の装いは終わり,野原ではすべての草が枯れ果ててしまう。
 辺りは一面,茶褐色一色になる。
 雪が降るまで,北海道は鉛の様な風景と化してしまう。
 それは,そんな暗い暗い冬の始まりのことであった。

 社長のパパはDQNだったが,母方の方は,比較的まともな家庭環境だったという。
 そして,それを確認したのは,我々が3年目になった時のことである。
 暗い冬の始まりにも拘らず,それは我々を明るくさせてくれた。

 社長はその日の朝,いつものようにゼミ室に顔を出した。
 そして,顔だけではなく足も見せてくれた。
 そこにあったものは・・・

 5本指の靴下であった。
 素材は,まるで軍手の様な素材だった。
 ごわごわとして,5本の指がにょきにょきと生えている靴下。
 合ってる。見事に社長とマッチしている。
 ゼミ室は大爆笑に包まれた。

 しかし,それは・・・
 東京に住む社長の祖父母が送ってくれた物だった。
 遠く異郷に住む可愛い孫を想って送った物だった。

 北海道の冬はさぞ厳しかろう。
 水虫である足の指の間はさぞ痒かろう。

 暖かくて水虫にも効く靴下を探し回ったに違いない。
 そのことを知った我々一同は爆笑したことを大きく後悔し,祖父母のの思いに涙した。

 しかし,その事で女性に縁の無い社長が,更に女性から遠ざかったことを社長の祖父母は知る由も無い。
 小さな親切大きなお世話である。
 知らぬが仏である。
 知ってしまったら,「何と不憫な孫であろうか」と更に心を痛めたに違いない。

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