『社長 vol.33』
北海道の秋は短い。
10月も中旬に入ると,山は眠る。
厳しい冬の始まりである。
賑やかな山々の装いは終わり,野原ではすべての草が枯れ果ててしまう。
辺りは一面,茶褐色一色になる。
雪が降るまで,北海道は鉛の様な風景と化してしまう。
それは,そんな暗い暗い冬の始まりのことであった。
社長のパパはDQNだったが,母方の方は,比較的まともな家庭環境だったという。
そして,それを確認したのは,我々が3年目になった時のことである。
暗い冬の始まりにも拘らず,それは我々を明るくさせてくれた。
社長はその日の朝,いつものようにゼミ室に顔を出した。
そして,顔だけではなく足も見せてくれた。
そこにあったものは・・・
5本指の靴下であった。
素材は,まるで軍手の様な素材だった。
ごわごわとして,5本の指がにょきにょきと生えている靴下。
合ってる。見事に社長とマッチしている。
ゼミ室は大爆笑に包まれた。
しかし,それは・・・
東京に住む社長の祖父母が送ってくれた物だった。
遠く異郷に住む可愛い孫を想って送った物だった。
北海道の冬はさぞ厳しかろう。
水虫である足の指の間はさぞ痒かろう。
暖かくて水虫にも効く靴下を探し回ったに違いない。
そのことを知った我々一同は爆笑したことを大きく後悔し,祖父母のの思いに涙した。
しかし,その事で女性に縁の無い社長が,更に女性から遠ざかったことを社長の祖父母は知る由も無い。
小さな親切大きなお世話である。
知らぬが仏である。
知ってしまったら,「何と不憫な孫であろうか」と更に心を痛めたに違いない。
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