土曜日, 11月 18, 2006

たもちゃん 7

 『たもちゃん vol.7』

 今のたもちゃんの楽しみは,食べることだけだ。
 特に甘い物には目が無い。
 袋菓子があると,いつの間にか無くなっている。
 すべて,たもちゃんの所為だ。
 そう,たもちゃんは他の人がいないと食べ物を探して徘徊するのだ。
 人がいる時には,椅子から動かないが。

 この間,久し振りにたもちゃんのところへ行った。
 お土産に,ゼリーの詰め合わせを持って行った。
 嬉しそうな顔をするたもちゃん。
 たもちゃんは,早速ゼリーを口にした。
 しかし・・・
 動きが鈍い。
 とてつもなく鈍い。
 3歳児よりも食べるのが遅い。
 それはそうなのだ。
 パーキンソン病は,手足が不自由になるのだ。
 プルプルとしたゼリーをプルプルとした手で食べるたもちゃん。
 一口を口に運ぶまで,30秒は掛かる。
 飲み込むのは速い。

 遂に,たもちゃんは痺れを切らした。
 「おい。カレン(嫁の名)。食わしてくれ」
 嫁は,冷たく突き放す。
 「そんな物くらい,自分で食べなよ。あたしは忙しいんだから」
 淋しい目でオイラを見つめるたもちゃん。
 オイラは・・・
 目を逸らしてしまった。
 こんなオイラは婿失格だ・・・

 たもちゃんは,優しさを計るリトマス紙のようになってしまった。

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