土曜日, 11月 18, 2006

社長 11

 『社長 vol.11』

 そうそう,大学3年目のことだ。
 時は11月。
 初雪がちらちらと降り始めた頃だ。
 それは,大学祭のときだった。
 我々が属していたゼミは,3年目が中心となって模擬店を出すのが慣わしだった。
 我々は生物のゼミだったため,「SEIBU??」という名で模擬店を出店していた。
 模擬店のテーマは「西部」。
 そのため,スタッフは(ううっ,かっこいいぞ。オイラ)全員ジーンズにバンダナ着装が義務付けられた。
 もちろん,義務付けたのは,模擬店のディレクターである,オイラだ。
 スタッフの中心となる我々はもちろん,店員となる2年目,下働きの1年目もみんな,おいらの言う通りの姿になった。
 たった一人を除いて。

 そう,あなたの予感は的中している。
 ジャージ姿で開店にやってきたのは,社長である。
 我々は,悩んだ。
 彼をスタッフとして扱っていいものかどうか。
 でも,社長は曲がりなりにも3年目だ。
 仕方ない。彼は特別枠にしよう。
 全員暗黙の一致で,彼を店長に祭り上げた。
 もちろん,カウンターの中ではなく,レジ係だ。
 社長は,金が大好きだったので,喜んでレジ係を引き受けた。

 ハンバーグハウス「SEIBU??」は,私の筋書き通り繁盛を極めた。
 何せ,30種類以上のハンバーグを用意したのだから,当然だ。
 オイラはやはり凄い。プロデュースの才能がある。

 でも,それ以上に凄かったのは,やはり社長である。

 大学祭も残り数時間と迫った頃,店はピンサロのような,ディスコのようなノリになった。
 客もスタッフも入り混じって,踊りに踊った。
 テーブルの上ではディスコクィーンの如く,誰か彼かが踊り狂ってた。
 その時,ひっそりながら,しかし一番楽しんでいたのは,実は社長であった。

 社長は,バケツから汚水をコップに入れて,踊り狂っている奴等に手当たり次第にぶちまけて喜んでいたのである。
 まあ,汚水といっても飲み残しのビールとか,ウイスキーであるから口に入っても死ぬことはない。
 それをいいことに,社長は,
「ひっひっひっひ」
と不気味に笑いながら,群集に向かって汚水をぶちまけていた。
 それに気づいた,俺とNは,ひっそりと店から出て行った。
「O先輩,N先輩,どこに行くんですか? 一緒に馬鹿な奴等に聖水をもっと振りかけてやりましょうよ。いっひっひっひ」
 そう,社長はこの後,汚水で汚れた教室を片付けしなければならないことを完全に忘れていたのだった。
 頼むよ,もうやめてくれよ,社長・・・

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