土曜日, 11月 18, 2006

社長 8

 『社長 vol.8』

 「あ,あ,あ,エ,エ,S君(社長の本名)は,な,な,な,何をやっているんだい?」
 Y教授が怒りに打ち震えたのは,社長のせいだった。

 時は大学2年目の夏休み。
 場所は北海道の南に位置するK町だった。
 我々学生は,臨海実習を行うため,この地に集合した。
 海洋生物の生態調査が実習内容であった。
 特に,ウニが成長する過程の観察及びスケッチをするのが実習の主な内容であった。

 実験の1日目は,海洋生物の捕獲を行った。
 貝やら甲殻類やら軟体動物やら海草を捕獲した。
 特に我々は,棘皮動物であるウニを多く捕獲した。
 もちろん実験に使用するためである。
 夜になって,一杯引っ掛けるときの肴にも使用するためでもある。
 我々は,学術的目的を遂行するため,ウニの乱獲を行った。
 我々が実力を存分に発揮したため,実験はもとより夜の肴にも困ることは無かった。

 1日目は順調であった。
 夜にはY教授も交え,アルコールの摂取により,親交を深めた。

 問題が起きたのは3日目の夜である。
 夜も11時を過ぎた頃だろうか。
 皆,連日の徹夜のため,体力の限界を迎えていた。
 時々視点がずれるのを感じつつ,ウニの卵子の分割の様子を観察し,黙々とスケッチしていた。
 ウニの卵子を保護するため,容器を真水で冷やしていたのだが,社長がミスをして(本当にミスか?)容器の中に真水を入れてしまったのだ。
 ウニは海水の中で育つ体内システムを持っている。
 真水に対応できない。
 真水を入れられた結果,浸透圧の関係で卵殻は破壊された。
 簡単に言うと,ウニの卵は死んじゃった。

 社長,GJ !!!

 我々は,連日の徹夜の観察及びスケッチから解放された。
 学生からは褒め称えられた社長であるが,Y教授にはそれが通用すべくも無い。
 全員の前でねちねちと嫌味を言われる社長。
 太った体が小さく見える。
 彼がこんなに小さく見えたのは,初めてだった。
 Y教授も初めて,Sのことを『社長』と呼ばずに,本名で叱った。

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