土曜日, 11月 18, 2006

たもちゃん 6

 『たもちゃん vol.6』

 たもちゃんが元気な頃,一緒に山に木を切りに行ったことがあった。
 その時は,夏の暑い盛りで,めくらアブがぶんぶん飛んでいた。
 オイラの周りにもたもちゃんの周りにも無数のアブが飛んでいた。
 オイラは虫が苦手だ。
 オイラは,アブが近寄ってくるたび,撃退したり,逃げたりと一瞬でもじっとしていることはなかった。
 それに引き換え,たもちゃんは・・・
 微動だにしない。
 そして,チェーンソーの用意をしている。
 背中には,アブを何匹もくっつけている。
 よく見ると,首にも一匹のアブがくっついている。
 アブなんぞを怖がっている男なんぞ男ではない。
 背中がそう言ってるようだった。
 
 アブに血を吸われても黙々と作業を続けるたもちゃん。
 それは,男の中の男だった。
 その日から,オイラはたもちゃんを男として尊敬した。

 そんなたもちゃんが今では・・・
 夜になり,当然家の明かりを点ける。
 網戸の隙間から,開け閉めをする玄関からいろんな虫が家の中に入ってくる。
 当然,蛾も入ってくる。
 すると,たもちゃんは必ずこう言う。
 「おい,ルーシー(オイラの嫁の名),ちょうちょ入ってきた。ちょうちょ」
 違うって。
 蛾だって。
 
 蛾をティッシュで摘み,外へ逃がしてあげる嫁。
 「そんな,逃がしたらまた入ってくるだろ。ストーブでくべろ(燃やせの意)」

 蛾にしても他の虫にしても兎に角,殺さないと気が済まないたもちゃん。
 この時のたもちゃんは全然,仏のたもちゃんではない。

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