『たもちゃん vol.6』
たもちゃんが元気な頃,一緒に山に木を切りに行ったことがあった。
その時は,夏の暑い盛りで,めくらアブがぶんぶん飛んでいた。
オイラの周りにもたもちゃんの周りにも無数のアブが飛んでいた。
オイラは虫が苦手だ。
オイラは,アブが近寄ってくるたび,撃退したり,逃げたりと一瞬でもじっとしていることはなかった。
それに引き換え,たもちゃんは・・・
微動だにしない。
そして,チェーンソーの用意をしている。
背中には,アブを何匹もくっつけている。
よく見ると,首にも一匹のアブがくっついている。
アブなんぞを怖がっている男なんぞ男ではない。
背中がそう言ってるようだった。
アブに血を吸われても黙々と作業を続けるたもちゃん。
それは,男の中の男だった。
その日から,オイラはたもちゃんを男として尊敬した。
そんなたもちゃんが今では・・・
夜になり,当然家の明かりを点ける。
網戸の隙間から,開け閉めをする玄関からいろんな虫が家の中に入ってくる。
当然,蛾も入ってくる。
すると,たもちゃんは必ずこう言う。
「おい,ルーシー(オイラの嫁の名),ちょうちょ入ってきた。ちょうちょ」
違うって。
蛾だって。
蛾をティッシュで摘み,外へ逃がしてあげる嫁。
「そんな,逃がしたらまた入ってくるだろ。ストーブでくべろ(燃やせの意)」
蛾にしても他の虫にしても兎に角,殺さないと気が済まないたもちゃん。
この時のたもちゃんは全然,仏のたもちゃんではない。
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