土曜日, 11月 18, 2006

社長 36

 『社長 vol.36』

 社長は,ギャンブルも好きだった。
 3年目になった時のことである。
 社長は,パチンコに嵌った。
 勧めたのは,俺だ。

 当時,パチンコは技が使えた。
 ある台は,盤面の真ん中に回転する役物があり,そこには3つの穴があった。
 そのうちの1つが大当たりというか,出球が増える穴であった。
 その台の役物は,15秒で大体1周していた。
 そのため,大当たりの穴が入る状態になった時に打ち,それ以外は打たないという,いわゆる節約打法だった。
 しかし,効果は覿面。
 元手は2・300円。
 勝ちは2・3000円。
 最大で20000円を超えた。
 兎に角,連戦連勝であった。
 俺は,講義を抜け出したり,講義が終わったらすぐに行くというように,毎日のように打っていた。
 金が無くなるとパチンコを打ちに行った。
 そして,社長もそんな金回りの良い俺に目を付け,何時の間にか,俺がパチンコに行く時は付いてくるようになっていた。
 そう,金の匂いは絶対に逃さないのだ。
 そして,社長も連戦連勝であった。

 ある時,俺と社長はいつものようにパチンコを打っていた。
 すると,場内アナウンスで呼び出された。
 それは,バイト先の上司からであった。
 何故,バイト先の上司が俺達の居場所を知っているのだ?
 その時,咄嗟にそう思った。
 その謎はすぐに解明された。
 Nである。
 Nが,ちょうどその時バイトに行っていて,その上司からマージャンを誘われたのだ。
 Nは,博打を一切しない男だった。
 自分がメンツに加われないため,俺達を代理指名したのだった。
 そして,俺と社長は雀荘に向かった。
 上司の命令は絶対なのだ。
 
 向かった先の雀荘はみすぼらしい所であった。
 今にも潰れそうだ。
 もしかしたら本当に潰れたことがあるのかもしれない。
 兎に角,ボロで,臭くて,小汚い所だった。
 それが社長に幸いしたのだろうか?
 兎に角,強かった。
 その日の社長は神懸り的なあがり方をしていた。
 そして,夜は更け,夜食を食おうということになった。
 負けが込んでいたバイト先の上司と先輩と俺は,弱々しく呟いた。
 「カツ丼にでもするかな」
 社長は,そんな俺達を気にすることなく,大声で注文した。
 「え~と,握りの特上を2人前」
 全然周りの空気を読まない社長。
  ・
 読めないのではない。
  ・
 読まないのである。
 
 注文の品が届き,我々は夜食を食った。
 上司と先輩が,嫌味ったらしく言った。
 「おお,その海老,でっかいなあ~」
 「そのトロ,うまいだろうな~」
 「おおお,イクラ,山盛りになってて落っこちそう」
 勿論,そんな嫌味を言われても,動じる社長ではない。
 「いや~,それほど美味くないですよ。ここの寿司屋は」
 流石は厚顔無恥の社長。

 翌日の帰り道,俺は太陽が黄色く見えた。
 上司は,老人のようだった。
 先輩は,頬がこけていた。
 そして社長は・・・
 頬は血色も良く,肌が赤ん坊の様に艶々と輝いていた。

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