『社長 vol.36』
社長は,ギャンブルも好きだった。
3年目になった時のことである。
社長は,パチンコに嵌った。
勧めたのは,俺だ。
当時,パチンコは技が使えた。
ある台は,盤面の真ん中に回転する役物があり,そこには3つの穴があった。
そのうちの1つが大当たりというか,出球が増える穴であった。
その台の役物は,15秒で大体1周していた。
そのため,大当たりの穴が入る状態になった時に打ち,それ以外は打たないという,いわゆる節約打法だった。
しかし,効果は覿面。
元手は2・300円。
勝ちは2・3000円。
最大で20000円を超えた。
兎に角,連戦連勝であった。
俺は,講義を抜け出したり,講義が終わったらすぐに行くというように,毎日のように打っていた。
金が無くなるとパチンコを打ちに行った。
そして,社長もそんな金回りの良い俺に目を付け,何時の間にか,俺がパチンコに行く時は付いてくるようになっていた。
そう,金の匂いは絶対に逃さないのだ。
そして,社長も連戦連勝であった。
ある時,俺と社長はいつものようにパチンコを打っていた。
すると,場内アナウンスで呼び出された。
それは,バイト先の上司からであった。
何故,バイト先の上司が俺達の居場所を知っているのだ?
その時,咄嗟にそう思った。
その謎はすぐに解明された。
Nである。
Nが,ちょうどその時バイトに行っていて,その上司からマージャンを誘われたのだ。
Nは,博打を一切しない男だった。
自分がメンツに加われないため,俺達を代理指名したのだった。
そして,俺と社長は雀荘に向かった。
上司の命令は絶対なのだ。
向かった先の雀荘はみすぼらしい所であった。
今にも潰れそうだ。
もしかしたら本当に潰れたことがあるのかもしれない。
兎に角,ボロで,臭くて,小汚い所だった。
それが社長に幸いしたのだろうか?
兎に角,強かった。
その日の社長は神懸り的なあがり方をしていた。
そして,夜は更け,夜食を食おうということになった。
負けが込んでいたバイト先の上司と先輩と俺は,弱々しく呟いた。
「カツ丼にでもするかな」
社長は,そんな俺達を気にすることなく,大声で注文した。
「え~と,握りの特上を2人前」
全然周りの空気を読まない社長。
・
読めないのではない。
・
読まないのである。
注文の品が届き,我々は夜食を食った。
上司と先輩が,嫌味ったらしく言った。
「おお,その海老,でっかいなあ~」
「そのトロ,うまいだろうな~」
「おおお,イクラ,山盛りになってて落っこちそう」
勿論,そんな嫌味を言われても,動じる社長ではない。
「いや~,それほど美味くないですよ。ここの寿司屋は」
流石は厚顔無恥の社長。
翌日の帰り道,俺は太陽が黄色く見えた。
上司は,老人のようだった。
先輩は,頬がこけていた。
そして社長は・・・
頬は血色も良く,肌が赤ん坊の様に艶々と輝いていた。
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