土曜日, 11月 18, 2006

社長 31

 『社長 vol.31』

 実際,警察権力に恐れをなさぬ社長の姿を確認できた出来事があった。
 それは,社長の住む寮から友人のNのところに行った時のことである。
 時間帯は夜の10時頃。
 前回に書いた大学の通りでの出来事である。

 社長はその頃スクーターを持っていた。
 勿論只で手に入れたものだ。
 寮の先輩が卒業するときに社長に残していってくれた代物である。
 大体,金の無い社長がスクーターを買えるわけは無いのである。
 それでなくたって借金まみれなのだから。

 俺と社長は,スクーターに違法な二人乗りをしてNのところに向かった。
 社長が運転をし,俺はその後ろに乗った。
 そして,Nのアパートが目前になったところで,
 「そこのバイク,止まりなさい。そこのバイク,止まりなさい」
 とスピーカーを通した声がした。
 そう。日本の治安を守るポリスメンたちであった。
 そのまま,俺と社長は近くの交番まで連れて行かれた。
 交番の中で取調べが行われた。
 俺は初めての警察のご厄介に身震いがした。
 俺は只,親鳥と逸れたヒナのように震え,縮こまっていた。

 (ポリスマン) 「はい。免許証見せて」
 (社長)    「無い」
 (ポ)     「どういうこと,無免許?」
 (社)     「免許証無くした」
 (ポ)     「いつ無くしたの?」
 (社)     「忘れた」
 (ポ)     「住所,名前は?」
 (社)     「A市K町○丁目,『つきがおか寮』○○号室。○○○○(社長の本名)」
 (ポ)     「寮ってことはA大学?」
 (社)     「そう」
 (ポ)     「『つきがおか』の『つき』ってどんな字?」
 (社)     「『築山(つきやま)』の『築(つき)』」
 (ポ)     「ん? どんな字だっけ?」
 (恐る恐る俺) 「『建築』の『築』です」
 (ポ)     「ああ,なるほど」

 どこまでも無愛想に権力に歯向かう態度を振舞う社長。
 そして,この場を逃れるために卑屈になってる俺。
 正に月とすっぽんである。

 青切符を切られて,ちょっと説諭を受けて我々は解放された。
 「O先輩。警察なんて馬鹿だから,あんな丁寧に教えてやる必要は無いんですよ」
 「でも,やっぱり警察だし・・・」
 「大体あいつの肩には星が一つしか付いてなかったじゃないですか。下っ端ですよ。下っ端」
 「『築山』の『築』が分からないなんて馬鹿の証拠ですよ。いっひっひっひ」

 器の違いを見せ付けられた俺だった。

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