『社長 vol.31』
実際,警察権力に恐れをなさぬ社長の姿を確認できた出来事があった。
それは,社長の住む寮から友人のNのところに行った時のことである。
時間帯は夜の10時頃。
前回に書いた大学の通りでの出来事である。
社長はその頃スクーターを持っていた。
勿論只で手に入れたものだ。
寮の先輩が卒業するときに社長に残していってくれた代物である。
大体,金の無い社長がスクーターを買えるわけは無いのである。
それでなくたって借金まみれなのだから。
俺と社長は,スクーターに違法な二人乗りをしてNのところに向かった。
社長が運転をし,俺はその後ろに乗った。
そして,Nのアパートが目前になったところで,
「そこのバイク,止まりなさい。そこのバイク,止まりなさい」
とスピーカーを通した声がした。
そう。日本の治安を守るポリスメンたちであった。
そのまま,俺と社長は近くの交番まで連れて行かれた。
交番の中で取調べが行われた。
俺は初めての警察のご厄介に身震いがした。
俺は只,親鳥と逸れたヒナのように震え,縮こまっていた。
(ポリスマン) 「はい。免許証見せて」
(社長) 「無い」
(ポ) 「どういうこと,無免許?」
(社) 「免許証無くした」
(ポ) 「いつ無くしたの?」
(社) 「忘れた」
(ポ) 「住所,名前は?」
(社) 「A市K町○丁目,『つきがおか寮』○○号室。○○○○(社長の本名)」
(ポ) 「寮ってことはA大学?」
(社) 「そう」
(ポ) 「『つきがおか』の『つき』ってどんな字?」
(社) 「『築山(つきやま)』の『築(つき)』」
(ポ) 「ん? どんな字だっけ?」
(恐る恐る俺) 「『建築』の『築』です」
(ポ) 「ああ,なるほど」
どこまでも無愛想に権力に歯向かう態度を振舞う社長。
そして,この場を逃れるために卑屈になってる俺。
正に月とすっぽんである。
青切符を切られて,ちょっと説諭を受けて我々は解放された。
「O先輩。警察なんて馬鹿だから,あんな丁寧に教えてやる必要は無いんですよ」
「でも,やっぱり警察だし・・・」
「大体あいつの肩には星が一つしか付いてなかったじゃないですか。下っ端ですよ。下っ端」
「『築山』の『築』が分からないなんて馬鹿の証拠ですよ。いっひっひっひ」
器の違いを見せ付けられた俺だった。
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