『社長 vol.6』
そうそう,思い出した。
あれは5月の花見のことだった。
(北海道では花見は,時期的に5月に行う)
俺や社長が属していたゼミも5月の連休後に花見を行った。
花見の場所は一応A市の桜の名所でもあるK公園だった。
K公園はちょうど駅の裏側に位置していた。
大学からはちょうど市の裏側に当たり,交通の便が不便だった。
そのため,ジンギスカンをするための食料,飲み物,ガスボンベ,鍋など重くて持ちにくい物はすべて1年生の持ち物だった。
当然,社長も俺も持ちにくい物を持って,花見の公園までバスを乗り継いで行った。
しかし,社長と俺は,重いけれど帰りは楽になる飲み物と食料を運んだ。
花見を始めたのは,午後の1時頃。
平日の真昼間ということもあって,公園は我々の貸切状態だった。
教授を交え,真面目な花見は滞りなく進んでいった。
社長は時々,アンコールに答え,『カポ』をやっていた。
そして,教授たちは普通に帰った。
事件が起きたのは,花見の帰りのことだった。
酔いの勢いに任せて,我々は歩いて帰ろうとしていた。
そして,駅の裏側に着いたときだった。
A市は駅の入り口が一つしかない。
駅の裏から大學に帰るには,遠回りの道を選ばなければならない。
しかし,我々には強い味方がいた。
酔いである。
酔いの勢いで,駅の構内を横切ることを決意した。
全員一致で。
線路は,10線以上ある。
幅は優に100mは超えている。
我々はゲリラの様に草むらに隠れ,辺りを見渡す。
駅員がいないのを確認し,我々は走った。
そして,駅を横切るのに成功した
かに見えた。
後ろを振り返ると社長が線路の上に転んでいる。
転んだ瞬間に口からアルコールの混じった汚物を噴出したようだ。
我々は,全員,駅を横切る時よりもスピードを上げて,その場から逃げた。
その後の社長の処遇については,我々は一切関知しない。
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