『オラの家族 番外編 2 ムサシ』
彼は正確に言うとオラの家族ではない。
隣の家族だ。
10数年前のことである。
オラの隣の家では,柴犬を飼っていた。
名前はムサシ。
ムサシは甘えん坊な犬だった。
外で飼われていたのだが,雨が降るとクンクン鳴いて,家の中に入れてもらうような弱っちい犬だった。
知らない人が来ると,小屋の中でじっと身を潜めている犬だった。
当然,番犬には使えない。
どうも,彼は自分を犬と認識していなかったようだ。
彼の飼い主の子供に対しては,対等の立場で付き合っていた。
オラもその頃は,犬を飼ってなかったので,可愛がっていた。
ある時,オラと嫁は散歩に行くことにした。
ついでだから,ムサシも連れて行った。
行った所は,川だった。
川に行く途中,畑の小道を歩こうとした。
そこには,ごくごく小さな用水路があった。
幅が50cm位のだ。
オラの前を歩いていたムサシは,オラの顔をじっと見つめた。
飛び越えるのが怖いのである。
そこで,オラが軽く飛び越えた。
と言っても,軽く一跨ぎしただけだった。
ムサシはオラの様子を見て,少し,躊躇の表情を浮かべていた。
飛び越えようかどうか悩んでいたらしい。
ついに決心して飛び越えたが,飛び越え方は下手だった。
小脳が未発達なのである。
そして,川に着いた。
オイラは,川べりに行って,コンクリートの飛び石に飛び乗った。
距離にして,約1m位だ。
こんなの屁でもない。
ところが,ムサシは躊躇している。
必死に川の水を凝視しているのである。
彼は彼なりに,飛べるかどうか,川の深さはどうか,安全は確保されているのかと確認していたのだろう。
数分後,ついに彼は決心し,飛んだ。
しかし,現実は厳しかった。
彼は,川に落ちたのである。
しかも,彼の足は川底の泥にはまっている。
身動きできない。
と言うより,身動きしようとしない。
彼は,困った顔をした。
オラは,盛んに綱を引いた。
それでも,彼は足を何とか抜こうと努力をしない。
じっと待っているのである。
オラの顔を見つめて,情けない目をしているだけなのである。
オラと嫁は,何とか,二人がかりでムサシを救出した。
救出された彼は,満足な笑みを浮かべていた。
トラウマになった彼は,決して物を飛び越えようとはしなくなった。
その後,彼を連れて散歩をしなくなったのは,言うまでもない。
土曜日, 11月 18, 2006
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